>  Interview   >  花を通して絆を結ぶ 神奈川県立吉田島高等学校

「花が好き」「花屋さんになりたい」「花に関係わる仕事に就きたい」───そんな想いで進路を決めた若者たちが集う高校があります。そこには、カリキュラムの中で栽培の基礎からフラワーアレンジメント技術までを身につけ、クラブ活動でよりハイレベルなフラワーデザインを習得しようとする生徒さんたちがいます。
花とともに学び、花とともに成長する3年間。それは必ず、人生に大きな実りをもたらしてくれるのです。

「家族みんなで花屋さんを開くのが夢
「人と人をつなげる、花と関わる仕事をしたい

目次

    吉田島高等学校の創立は、明治40年。農林の専門学校として長い歴史と伝統を誇り、幾たびかの変遷を経て、昭和23年に現在の校名になりました。都市農業科、食品加工科、環境緑地科の農業系の3学科に加え、県立高校としては初めての家庭科の専門学科である生活科学科を設置。農・食・環境・健康に関する、「いのちの教育」を展開しています。
    広大な敷地に6つの実習棟や農場、田畑などの充実した施設を持ち、県内で唯一の演習林や果樹園も所有。生徒たちは豊かな環境の中で、心にゆとりをもった学校生活を送っています。
    中でも環境緑地科は、農業土木、造園、草花の知識と技術を専門に学ぶ、花と緑のプロフェッショナル育成コース。造園技能士・フラワー装飾技能士を輩出し、また地域の学校との連携やイベントの協力などにも力を入れています。

    今回は、環境緑地科で学ぶ2年生の松本南月さんと、1年生の森井結さんにお話を伺いました。お二人は、カリキュラムに加えてクラブ活動の「草花部」にも所属。日々フラワーデザインに勤しみ、学び、楽しみ、仕事として花に関わる明日へと着実に足を進めています。花を通しての人とつながりを実感しているという、彼女たち。指導教諭の内山裕介先生を交えて、その真摯な想いをご紹介します。

    1. もともと、花が好き

    ──まず、環境緑地科に進んだ理由からお願いします。

    松本さん

    もともと小さい時から花が好きで、将来は花屋さんになりたいと思っていました。花を育てることにも興味があり、植物全般について学べる学校に入りたいと考えたのです。また母が趣味でお花をやっていて、仕事も花関係。家の中にはいつも花がいっぱいで、私の花好きは母の影響が大きいです。

    森井さん

    私も花が好きで、花に関する仕事に就きたいと思い、進路を選びました。また学科の授業だけではなく草花部に入ることで、花に対する視野を広げていけたらと思っています。

    内山先生

    将来的には、草花部ではフラワーデザインだけではなく、栽培や学校の花壇の管理などもやってほしいですね。咲いた花を使って、アレンジメントをするのが理想。買った花では命の大切さがわからないので、命を使わせてもらっていることを感じてほしいです。

    2. フラワーデザインにふれて

    ──草花部に入部してみての感想は?

    松本さん

    難しいことが、たくさん。家で花に触れるのは好きでやっていたのですが、きちんと育てるとなるとうまくいかないことが多いです。フラワーデザインを学んで感じたのは、アレンジメントは特に決まりが多いこと。私は自分で考えて生けるのが好きなのですが、決まったやり方を覚えたら楽しくて、どちらの良さもわかりました。

    ──決まりが多いのが、かえって面白い。これはアレンジメントをやってみないとわからないことですね。

    森井さん

    私は進学時に、将来を見据えたのと花の魅力に惹かれて入学したので、草花部には真っ白な状態で入りました。自分でデザインを考えたりとか、配置とかセンスとか、全部が初めてで……。自分には向いていないと感じることも多いですが、お花を扱うことは慣れや経験がものをいうと思いますので、焦らず続けていきたいです。

    ──まったく未経験だったのですか?

    森井さん

    はい。本当に何も知らない状態で、基礎から教えていただきました。 作品を実際に作るのは思っていたよりも難しく苦労していますが、完成したものを見ると本当に嬉しく、「これを自分が生けたんだ!」と思うと、すごく楽しくて達成感がありますね。

    また、先輩たちの作品を見て、「この生け方めっちゃいいな」「こういう花の使い方あるんだ」と学ぶことができるので、そういう視点を自分の中での成長に繋げていきたいです。

    3. 作品を作るにあたって

    ──作品作りで意識していることはありますか?

    松本さん

    メインの花以外の、小さい花などは短くし過ぎると目立たなくなるので、長く使って動きが出るようにデザインを考えるようにしています。最も意識しているポイントは、花材の特性を生かすことです。この花材はどう使ったらいいのか、長さは、挿す位置は、など。360度どこから見てもキレイなものになるようにと、考えるようにしています。

    森井さん

    動きがあるようなデザインが好きなので、そこは意識しています。また生ける時には、近くで見たり遠くで見たりして、観察力を身につけることも大事だと思っています。

    4. 草花部で得たもの

    ──それぞれ、本格的に花と関わって1、2年ですが、何を得たと感じていますか?

    松本さん

    自信ですね。花もフラワーデザインも好きだけど、難しいし不安で……。でもフラワー装飾技能士3級の資格を取れたことで「私でもできる!」と自信がついて、もっといろいろチャレンジしたいと思えるようになりました。

    森井さん

    この1年間、フラワーデザインや部活動を通して得られたものは多く、私に様々な影響を与えていると思います。中でも先輩たちとの交流は、小学校・中学校を通してそういう経験がなかったので、一番といってもいい大きな出会いでした。

    地域の方とのふれあいも、草花部だからこそです。開成町の駅の花壇に、有志の方と一緒にパンジーを植えたり清掃したり。「あじさいまつり」では、オリジナル品種の開成ブルーを100ポット限定で売ったりもしました。楽しかったです。

    内山先生

    イベントの時などに町から頼まれて、学校として生産を委託されることもあります。昨年の「あじさいまつり」では草花部の活動として、揷し木苗又は苗の販売までを体験してもらいました。

    森井さん

    100ポットが多いのか少ないのかわかりませんが、始めてすぐに売り切れてしまって驚きました。「すごくきれいなアジサイだね」などとお客さんが声をかけてくれて、とても嬉しかったです。コミュニケーションの大切さを知ったのも、得るものに入ると思います。

    ──さっそく、花屋さん体験ですね。

    5. コンテストへのチャレンジ

    ──NFD全国高校生フラワーデザインコンテストに興味はありますか?

    松本さん

    興味はあります。自分にできるのかな、機会があればやりたいな、というチャレンジしたい気持ちはあるんですが……。あとは、きっかけかな?

    内山先生

    応募を勧めているんですが、なかなか決心がつかないようです。NFDのコンテストには、昨年は3年生が一人挑戦しました。神奈川県主催の高校生フラワーアレンジメントコンテストには毎年参加していて、森井さんも去年から出ています。

    森井さん

    フラワーアレンジメントを本格的にやったのは、あの時が初めてでした。当日はどんな課題が出るのかわからないので、先生が用意してくれた花材で、即興でデザインする練習をしたんです。もう夏休み中、学校へ通って先輩の作品を見たりアドバイスを聞いたり。その期間があったので、先輩たちとも仲良くなり頼れるようになりました。

    コンテストは与えられた課題と花材・花器で、1時間という短い時間内に作ったのですが、早くしなければと焦ってしまって……。細かい部分がおろそかになってしまい、他の方の作品と比べて反省しました。今年は、自分でも納得できる作品を作りたいです。

    6. 活動は幅広く

    ──校舎に入ってすぐに、フラワーアレンジメントが飾られているのを目にしました。草花部では学校行事などでの装花も手がけているそうですが?

    松本さん

    毎年、卒業式の壺生けを新3年生が作るのが恒例です。先日も、部員みんなで話し合いながら、バランスを見て、考えて、時間をかけて制作しました。先生たちが褒めてくれて、それがすごく嬉しかったです。

    森井さん

    マイクの部分は、新2年生が担当させていただきました。初めての花材だったので、「どうする?」ってめっちゃ話し合って。先生にも、アドバイスをもらって。楽しかった!です。

    松本さん

    文化祭では、フォトスポットを制作しました。私が作ったのは、造花にテグスを通して花が浮いているみたいに見える、ガーランドのような装飾。それを窓の周りに、光が当たって花がきれいに見えるように飾りました。みんなが喜んで写真を撮ってくれて、作った甲斐がありました。

    森井さん

    厚紙でバラをたくさん作って、アーチ状にして、真ん中で写真が撮れるように仕上げました。今年も何か作りたいです。

    松本さん

    草花部としての恒例行事なんです。デザインは何もないところから、お客さんがどうやったら来てくれるか考えて、案を出し合って決めています。今年はとにかく造花の数が多かったので、放課後みんなで今日は何個作ろうみたいにノルマを決めて頑張りました。まるで内職(笑)。

    内山先生

    授業でもブーケコンテストなどを行っています。

    7. 地域との連携も

    ──地域の学校との連携事業を行っているとお聞きしましたが、どのような活動を?

    内山先生

    幼・小・中・高連携事業のことですね。町内の各学校と連携して、苗の植え付けや卒業式の飾花などを通した交流を行っています。

    松本さん

    昨年は2年生の授業で、開成幼稚園の子どもたちと一緒にパンジーを植えました。幼稚園のバスで学校まで来てくれて、「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と懐いてくれてかわいかったです。

    内山先生

    できるだけ関わりをと、向こうの先生も言ってくれて、植え替えの授業として実現しました。ただ、教えてあげると声をかけたら「お姉ちゃんがいい」といわれてしまいましたが(笑)。

    森井さん

    今年は私も2年生になるので、楽しみです。

    8. 花とともにある日常

    ──草花部の活動以外で、花に関して変化はありましたか?

    森井さん

    今まで家には花が全然なかったのですが、私が高校に入ってからは作品や花材を持ち帰るため、家に花が増えて家族も新鮮みたいです。やっぱり花のある暮らしっていいな、と実感しました。「これ私が生けたんだよ」と写真を見せると「えっ、すごいね」って褒めてくれたり、実物を見たいといってくれたりします。

    松本さん

    うちも母がめっちゃ褒めてくれます。

    森井さん

    テレビ番組などを見ていても、よくマイクの隣にお花が飾ってあるじゃないですか。そういうのを見て、「この花はこうやって使ったらいいんだ」とか、「こういう形もあるんだ」など、フラワーデザインを始めてからは気になるようになりました。

    松本さん

    町を歩いていても、飾っている花とかは目に入るよね。

    9. 私にとってのフラワーデザイン

    ──お二人にとって、フラワーデザインはどのような存在ですか?

    森井さん

    人と人をつなげてくれるものだなと感じました。人見知りで、今まで他の人と関わりを持っていなかった私に、フラワーデザインは多くの人とのつながりをくれました。この部活に入って、先輩方や地域の人とお花を通してコミュニケーションが取れたのは、本当に嬉しかったです。

    松本さん

    言葉で伝えなくても、花を通して気持ちを伝えることができると感じました。

    ──卒業後も、花と関わり続けたいですか?

    森井さん

    花との関わり方は多種多様だと思うので、将来的に花に関する仕事に就きたいと思っていますが、具体的には決めきれていません。たくさん調べていると、それこそ花屋もいいなと思うし、ブライダルとか花を通して人を笑顔にできるような仕事にも惹かれます。花は幸せの側にあるものだと思うから、それをもっと広げられたら素敵ですね。これからの高校生活で、いろいろなことに挑戦して、もっと考えていきたいです。

    松本さん

    小さい頃からの夢でもあるので、やはり花屋さんになりたいです。実は私は双子で、妹とは草花部も一緒。二人で店を開きたいといつも話しています。そのためにも卒業後は花店に就職して、いろいろな技術や知識を得て、自分が理想としている花屋さんを開きたいです。

    ──どのような花屋さんが理想ですか?

    松本さん

    まだ全然わかりませんが、他店とはかぶらない新しい何か。いろいろな人が来てくれるような花屋さんにしたいです。母も応援してくれていて「手伝うよ」といってくれているので、家族みんなでやりたい。絶対に実現したい夢です。

    ──これからフラワーデザインを始めたい人に、メッセージをお願いします。

    森井さん

    何も知らない状態で、この高校に入って初めてフラワーデザインにふれて、思っていたよりも難しいけれど、それ以上に楽しい。少しでも興味があったり迷っているのだったら、ぜひやってみてほしいです。私自身、この1年で成長でき、視野も広がったように感じていますから。

    松本さん

    アレンジメントという言葉がありますが、作り手によってまったく違う作品になるので、見る良さもあれば、自分が作ってみて感じる良さもあります。フラワーデザインをすることで、ものごとを多角的に捉え、いろいろな視点や考え方ができるようになります。

    10. フラワーデザインはここが魅力

    ──最後に、フラワーデザインの魅力についてお聞かせください。他の部員の方も、ぜひ一言お願いします。

    松本さん

    色や香りが空間に増えることによって、周りも明るくなるし、人も明るくなります。それで会話が生まれたりするので、そういうところが素晴らしいと思います。

    森井さん

    あまり話したことがなくても、初めてでも、花を通してだったらいろいろな人とコミュニケーションできる。これもフラワーデザインの魅力の一つだと思います。

    内山先生

    草花部のみんなは、花に興味があって来てくれているので、ぜひ花を通して心を育ててほしい。その中には、礼儀作法であったり社会性であったり、またチャレンジする力であったり取り組む力であったり。教育者としては、そういう部分を学んでほしいですね。花は僕たちをつなぐ、共通言語だと思います。

    【取材時、同席していただいた生徒のみなさんのコメント】

    ●花にふれていて、自分も癒されますが、周りのみんなも癒されます。そして笑顔が増えて、元気になれるところが好きです。

    ●フラワーデザインを始めてから自分の視点も変わったし、お花を丁寧に扱うことの大切さや、見る人たちにどう伝えるかということを考えるようになりました。またお花のあるところに目が行くようになり、自分の周りに花を増やそうと思うようにもなりました。

    ●将来は、ブライダル系をやりたいと思っています。そういう大切な場所を飾る花は、一段と綺麗に見えるので。花をさわっていて、式場でこういう飾りなら映えるだろうとか、いろいろな考えが出てくることがところが私にとっての魅力です。

    最後に記念撮影をと頼んだら、大きな黒板いっぱいに、あっという間にみんなでイラストを描いてくれました。クラブメイトたちの仲の良さが伝わってきます。内山先生も、なかなかのノリ。

    実は今回の取材、3年生で部長をされている生徒さんにご対応いただく予定でした。残念ながら体調不良で、急遽ピンチヒッターに立ってくれたのが松本さん。突然のことなのに、言葉を選びながら真摯に答えてくれました。また、森井さんはまだ1年生ながら、とてもしっかりとした考えの持ち主。この春からは今度は先輩として、後輩たちと花を通して絆を結んでいくのでしょう。

    ※この記事の情報はすべて取材当時のものです(2025.4.25)

    NFDは、花に夢をかける若きフラワーデザイナーを応援しています。