

ある人は、そもそもフラワーデザインを学ぶことを目的に進学し、またある人は予期せず出会ったフラワーデザインに魅了され人生に大きな影響を受ける──。
高校時代は、将来を左右する大切な3年間。プロフェッショナルへの第一歩を記すのも、この時期です。フラワーデザインの技術を身につけ、その奥深さを知ることは、これからの人生に大輪の花を咲かせてくれるでしょう。
世界遺産・富岡製糸場のある地として有名な上州富岡駅から、徒歩13分。富岡実業高等学校は、1926年(大正15年)の創立からまもなく100周年を迎えようとしています。群馬県内で初めて農工両分野にわたる教育を行う伝統校として知られ、卒業生は地域産業の中心となって様々な分野で活躍しています。4年前には生物生産科・地域産業科・電子機械科の3学科に改変。校訓の「礼節・勤勉・友愛」のもと、多くの生徒が学業に部活動に充実した学校生活を過ごしています。
次代を担うスペシャリストを育成する地域産業科では、フラワーデザインは授業の一環。課題研究として生物活用B部に進んだ生徒は3年生の1年間、集中的にNFD講師の資格を持った教師の指導を受けることができるそうです。培った技術力を手にコンテストなどにも参加し、確かな実績を挙げています。
今回ご紹介するのは、生物活用B部に所属する3年生の髙橋愛音さんと、小暮美輝也さん。小暮さんは、第20回NFD全国高校生フラワーデザインコンテストのNFD銀賞・名古屋市長賞受賞者でもあります。切磋琢磨しながら研鑽を積んできた、良きライバルであるお二人。取材時は、卒業を控えて将来を見据える強い瞳が印象的でした。指導教諭の森田直子先生にもご同席にいただき、自由に語っていただきました。
──生物活用B部に進んだ理由を教えてください。
髙橋さん
私はもともと美容専門学校の方に進みたくて、その行きたい学校にフラワーデザイン科があったんです。この先の道を広げるためにも、また選択肢を増やすためにもお花をやりたいと思い、華道部と生物活用B部に入りました。
小暮さん
最初は生物生産科を希望したのですが定員オーバーで地域産業科へ。ここでも食品開発を選んだところ、やはり定員オーバー。なのでフラワーデザインを選んだというより、辿り着いたというか……。
森田先生
本校では定員がオーバーした場合、成績によっては希望科目を選択できないこともあります。小暮くん、最初はちょっと不本意な感じでしたね?
小暮さん
そうですね。でも始めてみたら、めちゃめちゃ楽しかった! 最高です!
──小暮さん、声が一気に弾みましたね。では花をデザインするということについて、最初の印象と実践では違いはありましたか?
髙橋さん
華道部はクラブ活動なので、1年時からお花を生けていました。ただ花材は毎回2~3種類だったのですが、フラワーデザインはいろいろな色、いろいろな種類の花がいっぱいで、どれをどうしたらいいのか。華道と全然違うなと感じました。先生がやっているのは、すごく簡単そうに見えていたんですけど(笑)。
小暮さん
やりたくて始めたわけではありませんでしたが、実際にやってみたら興味が湧いて。上手くいえないんですけど、花と会話しているみたいな感じがして、どんどんその世界に入っていっちゃいました。楽しくて、もう今は花の専門学校に行くくらいに夢中になっています。
──たとえば友達に、フラワーデザインはここが魅力みたいな話をするとしたら?
小暮さん
話すのが苦手な人でも、花を通して人を笑顔にできて、そこからコミュニケーションを取れるのが素晴らしいと思います。近所の人にもあげたりしていたんですよ、作品を。そうすると、みんな笑顔で「ありがとう」と喜んでくれる感じが嬉しくて。はまった理由でもありますね。
森田先生
最寄駅の駅員のおばさんにあげたりもしてましたね。とても喜んでくれたそうです。
髙橋さん
以前の私は集中力がなくて、ゲームでも勉強でもそうなんですけど、没頭するっていうことが全くできなかったんです。でもお花を生けてみて、初めて没頭できた。私としてはすごい経験で、いい意味で性格までも変えてくれたのがフラワーデザインでした。
──授業での作品づくりはどのように?
森田先生
まず、課題があります。クリスマスやお正月などのそれぞれの季節の祭事をテーマに、学校側で花材を用意して同じものをつくります。要点はここだというポイント解説の後、それぞれ自由にアレンジしてつくってもらいます。
──作品をつくる時に大切にしていることは?
髙橋さん
人の作品を見ることでしょうか。みんなの作品を見てると、「ここ絶壁だな」とかぱっと見て分かるので、自分の作品はこの花を前に持ってきたり、または後ろにすることで全体の立体感や奥行きを出そうなど、アイディアの助けにしたりしています。
小暮さん
メリハリをつけることです。同じ位置に同じ花でなくて、段付けやグルーピングとかをしたりして工夫しています。
──NFD全国高校生フラワーデザインコンテストの前にも、お花の大会に参加されていますね
髙橋さん
夏休み入ってすぐぐらいに、農業クラブフラワーアレンジメント競技会に参加しました。1位と2位が今回栃木で行われる全国大会に進めるということで、すごい張り切ってたんですね。「二人で1、2位を取って、栃木行こうね」という意気込みで挑んだんですが、私は3位で小暮くんが1位で。すごい悔しくて大号泣してしまいました。NFDフラワーデザインコンテストには、今度こそという思いで臨みました。
小暮さん
あの頃はちょっと罪悪感があって、何を話していいか分からなかったです(高橋さん、へえと驚く)。群馬の競技会では最優秀を取れましたが、全国大会では入賞もできませんでした。でも経験値は積めたと思います。
──NFD全国高校生フラワーデザインコンテストの出品作品は、どのように生まれたのでしょうか?
髙橋さん
白とか緑とかのナチュラル系のものが好きなのと、動きを自然に出す感じも得意なので、質感と動きにこだわってデザインしました。ノートにテーマの『多様性』を枝分かれ式で真ん中に描いて、個性、色、色とりどり、虹色みたいな感じでどんどん広げていって、その中で最終的に行き着いたのが、何にも染まる白。題名は『フライングビューティフリー』とつけて、美しく飛び立つみたいな意味で素材に羽を使うことにしました。イメージに合う花を調べて、花言葉までこだわり、先生と相談しながら考えました。
小暮さん
私は色ですね。茶色とか渋い赤とか、落ち着いた感じ。ハデハデしいカラフルな感じも、可愛らしい感じも嫌で、写真集から色合いとテイスト、使いたい雰囲気などを探しました。枯れ木を使いたくて、似たような作品からイメージを落とし込んで、最終的に縦で高さを出すデザインを考えました。
コンセプトは、最初は『循環』だったんです。生えて、朽ちて、また新しく生まれるという、命が繰り返す感じを出したくて枯葉や枯れ木を素材にしたのですが、どうもしっくりとこなくて。最終的に、ちょっとカッコつけて『紡ぐ』としました(ちゃんと考えなさい、と高橋さん)。
森田先生
コンテストに出した作品が、二人が自分の好きなテイストを存分に出した、その子自身がよく映し出された作品に仕上がったと思います。
──ここを見てほしいというポイントや、苦労した点などは?
髙橋さん
応募の説明にも書いたのですが、使ってる素材をぜひ見てほしくて。ガラスの花器の中に、お花以外の異素材をいろいろと配して、一番下に繭が入ってるんですね。自分の秘めている個性をこの繭で表現して、その殻を破ってリボンやチュール、羽などで上へ飛び立つような感じを表現しています。
特にロープを渦巻状にするのがすごく大変で、1日ぐらいかけてがんばったんですけど、数日後に小暮君に潰されるっていう…(ちょっと喧嘩してて、と小暮さんは気まずそう)。また一から直しはしましたが、今度は上の方の花が大変で何回もやり直して嫌になってしまって…。
森田先生
心折れそうになりながら、がんばっていたよね(高橋さん、うんと頷く)。
小暮さん
こわしたのは謝りました。めっちゃ怒ってた。
私は高さや太さ、位置とか土台作りにこだわって、工業科の先生にも相談にのってもらいました。あれがなかったら、良い成績を残すことができなかったのですごく感謝しています。
森田先生
お花を挿すよりも、すごく時間をかけていましたね。何時間これに向き合ってるんだろというくらい。
小暮さん
ポイントですか? 実は中を覗き込むと、小さなうさちゃんが見えるんです。周りからは全然見えないんですけど、ちょこんと座っている。中は可愛く、外は自然な感じに仕上げたのを、自分では気に入っています。
苦労したところはツルを上に上昇させている部分。なるべく巻いている鉄の棒を見せないよう、落ち葉を細かくしたものをボンドで貼り付けて隠したりしました。すごく細かい作業で、気が遠くなりそうでしたね。花の挿し方も難しくて、一番しっくりくるのを探して花を変えていったら、バランスが取りづらくなってしまって。家に帰っても、これはここの位置だなみたいにずっと見ていました。
──かなり集中的にチャレンジしたようですが、勉強などは?
高橋さん
勉強も頑張りました。
小暮さん
ぎりぎりのラインで(笑)。
森田先生
でも良きライバルでしたよ。期末テストも重なったので、学校全体で応援してもらうんだから他もちゃんとがんばって、というプレッシャーをかけました(笑)。点数を競い合ったりとかしてましたね(でも小暮君は相手になんなかったね。うるせーよ。と言い合うお二人)。
高橋さん
みんなに応援してもらいたかったし、コンテストを全力で取り組みたいからこそ勉強も頑張りました。主要5教科からサブの教科まで全部、ここ3年間で一番学問とも向き合いましたね。フラワーのためだからできたんだと思います。
小暮さん
私は全然……。でも高橋さんに負けたくない、何も言われたくないという気持ちはありました。
──競い合える相手がいるの、いいですね。
高橋さん
はい、多分フラワーなかったらこんなに仲良くなってなかった。練習とか、二人でいる期間がとても長かったので。お昼ご飯や食べるものとか買いに行くのも全部二人だったので、絆は深まりました。
小暮さん
そうですね。 何回も喧嘩しましたけど、その分すごく絆は深まったなと思います。
──NFD全国高校生フラワーデザインコンテストに参加しての感想は?
小暮さん
コンテスト前日は緊張であまり寝付けなかったのですが、いざ会場に入るとその緊張が吹き飛び楽しく競技を行うことができました。何より、賞を取って自信がつきました。花に対して、これで思いっきりできるんだ!みたいにも感じましたし、これからにも繋げていこうと強く思いました。
高橋さん
以前、別の大会で優勝できなかったその悔しさをバネに今回の練習に励みました。その分、想いの詰まった作品になっていたので、良い結果に結びつかなかったのはとても悔しく、辛かったです。でも集中できたことで、そのために勉強もがんばれたし、コンテストがあったからこそできたことがいっぱいありました。また出品作の様々な個性や感性を目の当たりにしたことで、物事を捉える視野を広げることができたと思います。その視野を持って、次に活かしていきたいです。
──課外活動などはあるのですか?
森田先生
あります。授業の一環として行なっています。生徒たちが自主的に取り組む課題研究なので、自分たちで電話してアポイントを取ることから始めます。
小暮さん
生涯学習センターと市役所の方に、その時期が来たら連絡をとって日時を決定。季節の花やアレンジメントを飾りに行って、1週間経ったらまた回収みたいな感じです。
高橋さん
世界遺産の富岡製糸場からも、セミナーなどで「ぜひ富岡実業さんに彩ってもらいたい」と声をかけてもらうことがあるんです。私も、あそこで生けたことが2~3回あります。
森田先生
授業の一環でやらせてもらっている範囲内は通常のアレンジメントですが、イベントがあるので飾ってほしいと要請があった時は、予算を向こうに持ってもらってつくっています。大きなオブジェなどを頼まれたこともありますね。
──それでは総括として、高校生活の中でフラワーデザインをしたことで得たものとは
小暮さん
やっぱり花との会話でしょう。花の顔をちゃんと見られるようになったことですね。あと人間関係とか、周りがちゃんと見えるようになりました。花と関わることで、人間的に成長できたんじゃないかな。
高橋さん
私も同感です。友達関係で悩むことがこの3年間多かったんですが、作品づくりで一歩引いて全体を見ることが身についたせいか、自分が大人になって謝ることができるようになりました。
──今後の進路を聞かせてください。
高橋さん
私は人に笑顔を届けられる仕事に就きたいです。美容学校に進むつもりだったのですが、諸般の事情で普通の会社に就職することになりました。でも働きながら、いずれは夢を叶えたいと思っています。今はお花と一緒に人々の門出を祝い、支えられるような素敵なウェディングプランナーをめざしています。
小暮さん
卒業後はお花の専門学校に行きます。その後は大きな花屋さんに就職してお金を貯めて、自分のお店を開きたいです。地域産業科に入って、本当に良かったです。
──あなたにとってフラワーデザインとは何ですか?
高橋さん
高校の青春です。こういう仲間(小暮くん)に巡り会えたし。
小暮さん
人と人を繋げるもの、紡ぐものですね。
──最後に、読者へのメッセージをお願いします。
小暮さん
フラワーデザインに興味があるなら、まずは挑戦です。やってみないとわからない。
高橋さん
うん、そうだね。やって分かる楽しさなので、フラワーデザインは。やっててすごく思いました。
小暮さんは、フラワーデザインと文字通りの運命的な出会い。花と共に生きていくことを選択し、まっすぐに歩んでいくことが決まっています。はっきりと自分のこれからを見据える高橋さんも、きっと近い将来に夢を叶えることでしょう。二人を見守る森田先生は、教師というよりお姉さんのよう。和気藹々とした三人の語り合いは、まだまだ続きました。授業風景もこんな風なのかもしれませんね。
※この記事の情報はすべて取材当時のものです(2025.3.10)
NFDは、花に夢をかける若きフラワーデザイナーを応援しています。