

高校生活で夢中になれるもの。といえば部活動が挙げられるかもしれません。運動部から文化部まで幅広いジャンルがありますが、ここで紹介するのは花を使った部活動。そう、フラワーデザイン部。3年間という貴重な時間を花とともに成長していく。夢中になって花を追いかけるそんな高校生。そして、指導をする先生にフラワーデザインの想いを語っていただきます。
鈴木芽生さん(3年生)
第18回NFD全国高校生FDC 奨励賞作品画像
関東東海花の展覧会 銅賞作品画像
創部して13年が経ちます。約20年前、山梨県北杜市の高校で農業(園芸)の教員として働いていました。当時は、科目「草花」を担当。草花は植物の栽培管理だけでなく、園芸デザインという分野があり、フラワーデザインはその分野の中の一つでした。勤務する学校に、フラワー装飾技能士3級の取得やNFD全国高校生フラワーデザインコンテストに挑戦、指導している先生がおり、その先生と一緒にフラワーデザインを生徒に教え、学ぶ機会を得たことで指導する面白さを知ったのがそもそものきっかけです。
ある時、両親が体調を崩したこともあり、静岡県へ引っ越しすることに。以来、静岡県の教員採用試験を受け直し、現在の田方農業高校で勤務しています。
フラワーデザインが学べる専門学校は花の好きな生徒が集まります。しかし、農業高校はそうではありません。植物に興味がない生徒も数多くいます。そのため、フラワーデザインを授業で教えることは難しい。いかに興味を持たせるか、専門的に教えるためには創部しかないと考えました。
当時は私も若く、出る杭は打たれ、なかなか創部が認められず、苦労しました。しかし、諦めずにあるコンテストで日本一になりました。それでも認められなかった時は、ただただショックでした。創部の前に、育てた生徒は卒業してしまう。この繰り返しで、毎年一からの活動でした。それでも、自身を高める行動を続け、生徒が結果を出す度に情報発信を繰り返しました。そこから正規の同好会となり、正式に部活となりました。
創部にあたり、チームとしてのフレーズも必要と考え、大会やコンテストに出た時に目立つようTシャツを制作することに。
植物への想いを込め、どんな文字にするか悩みました。私の父が書家であることから相談し、一つの作品をお願いしました。そして、「なりたきは花のこころ」が生まれました。意味はそのまま、花の気持になりたい、そんな気持ちを持って活動したいと言う意味です。
部活動で私が不在の時は、部長が代わりとなって指示を出します。重要な役割であるため、毎年部長のお願いごとを一つだけ聞いています。ある代の部長が、全員を表彰台にのぼらせてくださいとお願いしてきました。それ以降、毎年同じお願いをされ、実現させるために多くの大会、個人、団体での活動に取り組むようになりました。
時代が変化していく中で、指導をするのに配慮を要する生徒も増えています。性格はバラバラで十人十色。何故、入部したのだろう? と思う生徒もいます。フラワーデザインを見ても花束やブライダルブーケなどの作品、華道やミニガーデンなどの園芸装飾、押し花の作品制作、生徒にとって得意な分野と不得意な分野があります。全体に掛ける言葉以外に、個に合わせた声掛けを心掛けています。田方農業高等学校フラワーデザイン部はただ勝利するためだけでなく、楽しく取り組むことを目標にしてきました。その結果が、現在に至っているのではないかと思います。
指導で大事にしている具体的な言葉は「百聞は一見にしかず」、農業でいうと「使っている鍬は光る」です。コンテストを例に挙げると、まずデザインを描き、それを起こします。生徒も私も実際に作品を作ると、デザイン通りに行かないため必ず壁にあたります。フラワーデザインではなくても参考程度に何かしらの作品を観た方が良いと伝えています。観察は大事です。もちろん、写真より実際の作品を見たほうが得るものは大きい。そして、真似てでも一度作ってみることが大切です。そうすることで難しさを知ります。その課題をどう解決するか、自分なりの答えを出す。もちろん私ができるアドバイスはします。創作活動で得た知識と技術を重ねると、自発的に作品制作を行い、作品に深みが増し、結果として入賞に繋がっていくことに。この繰り返し、プロセスが大切だと伝えています。指導者に言われるがまま仕上げた作品は、勝利のためには必要な時もありますが、制作でなく製作だと考えています。
大会に向けたスケジュール管理は、とても大変です。高校生なので、授業を欠席することもあるため、公欠願いの作成や保護者への出場承諾書、集金などのお便り作成、コンテスト開催地までのチケットや宿泊先の手配など、年間10回程度はあるので、それだけでも多くの時間が割かれます。私立でなく公立校なので、部活動は仕事ではないという考え方があります (生徒を引率する場合は仕事ですが)。平日の部活動指導に手当はなく、残業代も出ません。家族に文句を言われながらも、花と生徒に向き合っています(笑)。
仕事と並行しながらさらに、大会から逆算して花材の仕入れ、デザインと技術指導などを行います。そして、高校生に費用の捻出は極力避けたいという思いがありますので、コストはいかに抑えるか常に考えています。
生徒には多くの人に支えられているからこそ、部活動ができていると伝えています。そのため生徒は、感謝の気持ちを持って、植物と向き合ってくれていると思います。
技術の反復練習にも言えますが、植物も形がなくなるまで、活用しています。
高校3年間という時間は、人生においてわずかな期間です。3年間は1095日ありますが、田方農業高校の3年間の登校日は580日程度。フラワーデザイン部の生徒は引退が2月、家庭学習日、卒業式間近まで走るので800日以上部活動を行っています(笑)。それでも日々の高校生活は、大人になって振り返ると一瞬、閃光のような時間です。その時間の中で、人生の支えになる言葉や経験を授けることができたら教師冥利に尽きます。これからの時代、生きていくだけでも大変な時代だと感じます。そんな時代を駆け抜けていく生徒たちに、元気でたくましく人生を謳歌してもらいたいと願っています。植物に携わる仕事でなくてもフラワーデザイン部で得たことを胸に、自分の輝ける場所で自分にしかできない仕事、活躍を期待しています。
花は皆の身近にあり、生活を豊かにしてくれるものだと伝えたい。そして、フラワーデザイン部である生徒に対して、ものづくりの楽しさを経験し、花、そして部活動を通して、何か熱中できるものを探してほしい。理想を言えば、人生でこれだけは譲れない、誰にも負けないという気持ちをどんな分野でもよいので持ってほしいです。
赤池先生は日々仕事に忙殺されながらも、毎週火曜日には仕事を終えると、静岡県の伊豆から山梨県の甲斐市までレッスンに通っています。職場からだと片道約135キロ。山梨県の教諭時代から通っていた渡辺ひさ子先生が主宰するAphrodite design roomの生徒としてフラワーデザインの研鑽に努めています。授業や部活動でも助言をいただくことしばしばですが、ここで身に付けた技術力は、植物を見つめ直す重要なきっかけとなってると語ります。赤池先生自身も生徒のように大会に参加し、マネージメントだけでなくプレーヤーとしても日々フラワーデザインのすばらしさを生徒たちに伝えています。
※この記事の情報はすべて、取材当時のものです(2024.10.15)。