>  Interview   >  岐阜県立加茂農林高等学校 フラワーアレンジメント部

フラワーデザインだけではありませんが、コンテストなどおよそ順位をつけるものには勝った人、負けた人がいます。どれだけ練習してもかなわないことも。ですが、勝ち負け以上にひたむきにフラワーデザインを続ける姿はまぶしく見えます。わずか3年間の貴重な高校生活、何かに打ち込むことはその後の人生を左右することも。花を通して得るものは技術しかり、想い出しかり。そして、将来につながる力を養うことであるかもしれません。

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    岐阜県立加茂農林高等学校 フラワーアレンジメント部

    1912年(明治45年)創立の岐阜県立加茂農林高等学校。岐阜県中南部、中濃と呼ばれる地域にあります。生産科学科、食品科学科、森林科学科、環境デザイン科、園芸流通科の5学科があり、教育方針は、地域社会や産業界に貢献できる人材を育てること。どの学科でも特色あるカリキュラムがあり、プロを養成する高等学校です。園芸流通科ではフラワー装飾技能検定のためのカリキュラムも組まれています。現在、部員30名を擁するフラワーデザイン部は20数年の歴史を持ち、フラワーデザインの基礎が学べ、また式典の装飾、NFD全国高校生フラワーデザインコンテストや花いけバトル、産業教育フェアなどのコンテストに出場するなど、幅広く活動をしています。

    今回お話を伺ったのは、フラワーアレンジメント部に在籍する山田柚希さん(3年生)と、顧問である池戸祐太先生。機械室というフラワーデザインとあまりかかわりなさそうな部室で、花への想い、NFD全国高校生フラワーデザインコンテストへの意気込みのほか、将来の夢などを伺いました。

    原点-体験入部で感じた花の個性

    加茂農林高等学校を選んだ理由として、そもそもガーデンデザインをやりたくて入学したのですが、フラワーアレンジメント部が楽しくて気づけばどんどん花のほうにのめり込んでしまいました。そのきっかけは、体験入部です。フラワーアレンジメントの体験内容は毎年違いますが、私が入学した時は、食品科学科などで使用したジャムの空き瓶を再利用して、そこにアレンジメントをつくるというものでした。後で先生に聞くと、花も入学式などで使った花の残りを大事にストッカーに入れて再利用したそうです。花はそれぞれ種類も違えば、表情も違う。花を見ていると、何だかそれぞれの良さが感じられてしまい、振り返ると花が好きなんだなぁと思います。

    切り花図鑑を買って一人花の知識量を増やす

    庭園という大きなジャンルから部活を通してどんどん花の魅力に引かれ、本来は2年生の時といわれていますが、私は環境デザイン科なので3年生でフラワー装飾技能検定3級を取得しました。技術的な面では、顧問の池戸祐太先生、そして週2回ですが、NFDの小川多津子先生(NFD公認校/たづ子フラワーデザインスクール)に指導していただいています。池戸先生は技術面よりメンタル面を鍛えてもらっているような……(笑)。3級取得は今後の目標であるフローリストになりたいから。それ以上に花のことをもっと知りたいという想いが勝ったからかもしれません。皆には話していませんが、自分で花の図鑑を買って読んでいます。図鑑は高価なのでたくさんは買えませんが。

    フラワーデザインの楽しさ

    フラワーデザインをつくる時には自分の頭の中でイメージしたものを形にすることが多いですが、デザイン画ももちろん描いてみます。イメージしていたものが、フラワーデザインという形でしっかり出ている、花の向きや表情が思い通りになるととてもうれしくなります。自分の中で納得いく作品ができた時が、フラワーデザインをやっていて良かったという瞬間ですね。フラワーデザインをしていると、とくに色に季節感を感じるようになりました。母の日やハロウィン、クリスマスなどそれぞれの色があり、その中で目に入ってくるのは花の色。形もそうですが、色をとても意識します。

    コンテストに出て悔し涙を経験

    フラワーデザインしていると、アイデアなどに詰まることはあります。それが苦しいかというとまだ実感として湧いてきませんが、そういう時は一旦そこから離れて考えてみるようにしています。そうすることで頭の中が整理できたような気がします。つらい、苦しいといった感情以上に、フラワーデザインしている中で一番悔しかったことはあります。それは花いけバトルで決勝大会に行けなかったこと。出場するからには優勝目指して臨んだのですが結果が出せませんでした。時間内でいける練習、作品構成、先の出場者と被らないようにバリエーションを増やすなど、反復練習を繰り返しながら夏休みも頑張りました。先生方も協力していただいたのですが敗れてしまい、悔し涙を流しました。花いけバトルは1年生の時から出場していて、3年生の今年勝ちたかったのですが……。

    NFD全国高校生フラワーデザインコンテストに向けて

    花いけバトルが終わった後、最後のコンテストになるかもしれないと、先生からNFDコンテストに出場してみないかと言われました。NFD全国高校生フラワーデザインコンテストは初めて出場します。花いけバトルとは勝手が違って、デザイン画提出まで先生とともに5、6回修正しました。出場するからにはやはり優勝、上位入賞したい気持ちがありますので、まずはデザイン画を頑張りました。大会のテーマは多様性。多様性について、まず日常の中から探しました。最初に浮かんだのは性別、ほかに身長とか、大きな人もいれば小さな人もいる、性別を表すのに色分けしたり。それで、多様性って区別することから始まってしまうのではないかと。そんな区別ではなく個性あふれる世界になったらいいなと思うようになって、そこからデザインを考えました。大袈裟ですが世界平和の意味を込めた作品を目指します。

    フローリストへ

    フラワーアレンジメント部を通して花が好きになり、将来はフローリストを目指します。来年はJFTD学園日本フラワーカレッジに入学。フラワーアレンジメント部では、1年生の時に花の扱い方、フラワーデザインの基礎などを学びましたので、それらを活かして1年間頑張りたいと思います。もちろんすぐにフローリストと呼ばれることはないと思いますので、下積みも経験して夢をかなえたいと思います。

     

    花いけバトルには、1年生の時自らすすんで出場を志願した山田柚希さん。NFD全国高校生フラワーデザインコンテスト出展は最初で最後の体験になります。花いけバトルの悔しさをバネに、自分の納得いく作品をと力が入ります。やわらかな表情と物腰でどこにそんなパワーがあるのか。伸び伸びフラワーデザインを楽しんでいる姿が印象的でした。そうした生徒の個性を埋もれさせず、常に部員に声をかけコミュニケーションを図るのが池戸祐太先生。生徒の将来を見据えて接する姿にプロの指導者の意識の高さがうかがえます。生きる力を養ってほしい。そうした思いが言葉の端々に感じられます。

    森林、里山研究からフラワーアレンジメント部顧問へ

    フラワーデザインに触れたのは教員になってからです。私は近畿大学農学部出身で、森林や里山について研究していました。ですので、本来は自然の生態系などが専門ではあります。大学を卒業し、常勤講師を経て実修助手として新規採用された時教員の新規採用で初めにシクラメンの栽培を担当することになったんです。その当時シクラメンについての知識もないところからスタート。また、花壇で見かけるパンジー、マリーゴールドなどの苗も栽培したりして、それらを始めて1年後に教員として正式採用され教壇に立つことになりました。加茂農林高等学校の前、岐阜農林高等学校に赴任した時、花の栽培などを経験したことから、私が花の担当になり、その流れでフラワーデザインを行う部活動も受け持つことに。高校では国家検定の指導もしていることから、装飾技能士の資格もとってほしいといわれ、近くのフラワースクールなどに通うなどして3級の資格を取得することができました。その後、加茂農林高等学校に3年前に赴任し、以来、園芸流通科の教員として資格検定の指導などしながら、フラワーアレンジメント部の顧問を務めています。このような経緯でも顧問を続けていられるのは、20数年にわたってフラワーアレンジメント部の技術指導をしてくださる小川多津子先生(NFD名誉本部講師/岐阜県支部)のおかげです。小川先生はNFD公認校の『たづ子フラワーデザインスクール」を主宰する方で、加茂農林高等学校のフラワー装飾技能士検定のカリキュラムを導入した頃から携わってくれています。

    テクニックとメンタルを養う体制

    フラワーデザインの技術的な指導は小川先生が組み立ててくれています。ですので、私はマネージメント的なところであったり、生徒それぞれのメンタル面、コミュニケーション能力向上に努めているといったらいいでしょうか。生徒一人ひとりいろいろな子がいます。個性豊かですが、感情の波もあります。部員は30名。絶対フラワーデザインをしたいという明確な理由がなく入部する子も中にはいます。部活動は平日3日、うち2日は小川先生の指導が入る日ですが、イベントなどがなければ土日は活動していません。意欲がある子ばかりではないのは事実。そのため、どうやって部活動に参加してくれるかを考えて接しています。それぞれの子の特徴を生かしながら、なるべく参加しやすくなる努力はしていますね。そうしたことを考えられるのも、技術指導で小川先生がいらっしゃるからだと思います。花代として生徒にわずかな金額をいただき、その中から小川先生がボランティアで名古屋まで花の買い付けに行って下さる。大変ありがたいことです。

    身につけてほしいもの

    フラワーデザインだけではないと思いますが、自分で愛でるだけでなく人に喜んでもらう、相手の気持ちや花の気持ちを考えられる子になってほしいと常々考えています。小川先生のフラワーデザインのプロとしての緻密さを学び、その技術を持ってたくさんの方を喜ばせる。花いけバトルに参加するのも、高校生が大舞台でパフォーマンスできる強い精神力であったり、表現力であったり、そして観ている人を楽しませる力を養うにはよい大会だと考えエントリーしています。山田もそうですが、花のことを知らない1年生が全国大会などにまで出られる実力が身につくのを間近で見ることができるのはすごくうれしいことです。

    フラワーデザインする意味

    生徒たちに何が何でも優勝しろ、という気持ちでは臨んでいません。それは私自身が技術的に未熟なところがあるからかもしれませんが。それでも、夏休みを返上してまで大会に向けて本気で一生懸命取り組んでいる姿はきれいだし、すごくいい光景に映るんです。山田も話していましたが、花いけバトルにみんなで出て、負けて悔しいと涙ぐむ。そういう経験は尊いものだと思うし、やはりいろいろな経験を積んでほしい。他校と比べればコンテスト出場は少ないほうだと思います。本音を言えばもっと出てもらいたい。ですが、自発的に手を挙げた子でなければ意味はなく、また予算を考えると中々難しいこともあります。今回、NFD全国高校生フラワーデザインコンテストは名古屋開催とあってみんな連れていくつもりです。NFD全国高校生フラワーデザインコンテストは個人的に思い入れがあるんです。第1回大会が岐阜で行われました。亡くなられてしまいましたが、開催に向け恩師の小川正樹先生が尽力されました。その方に生物活用やフラワーアレンジメントについて教えてもらった、今ある自分を作ってくれた人でもあるので、とても感慨深いものがあります。

    フラワーデザインを通してみる教育的価値

    いろいろな大会で言えるかもしれませんが、出場した子たちの作品に対して、プロから見たフィードバックがあるといいですね。高校生はまだまだ発展途上な部分が多く、それだけに伸びしろだらけ。フィードバックによっては自分の未熟さや力不足を痛感することもとても大切だと考えます。何がだめで、どうすればよかったのか、結果だけだと得るものが足りないのではと思うことがあります。それで思い出しましたが、2018年、パシフィコ横浜で開催された日本フラワーデザイン大賞2017では、高校生の観覧ツアーや海外のデザイナーのデモンストレーション、小原流家元の講演などがありましたね。あの大会はとても有意義で、とても楽しかった。出展者一人ひとりというのは中々難しいところもあると思いますがコンテスト会場にいて耳を傾けていると、作品に対するコメントをしてくださる観覧者の方がいます。これはとても勉強になると思います。観覧者といっても、どこかで教えていらっしゃる先生かもしれませんので、とても貴重です。今回は高校生だけの大会ですが、ちょっと耳を傾けてみます。

    将来を見据えて

    フローリストを目指す生徒もいます。そんな時、最初は否定するんです。花店は厳しいからと。時間も経済的な面でも最初はやはり厳しいと。そこで一度ふるいにかけて、それでもという生徒に進路指導でフローリストのアドバイスをしています。岐阜周辺であれば、それでもいろいろと紹介しますが、東京といったような大都市圏になると、よほどやる気がある子でないと勧めません。山田はJFTD学園に入りますが、私に相談する前にオープンキャンパスなどに行って自分で進路を決めてきた。そういう子なら他の実力のある子に交じって頑張れるだろうと。ですが、まだまだメンタル面やコミュニケーション能力が追い付いていないかもしれないので大変かと思いますが、頑張ってほしいと願っています。強靭なメンタルを持つためにはやはり正義感を持つことはとても大事です。自分の考えたことを貫く勇気。かえって視野が狭くなってしまうことがあるかもしれませんが、自分の意見を押し通す力がないと自己表現は難しい。私自身は生徒に好かれようという意識で指導してはいません。私自身にも非常識な面もあれば、理不尽じゃないかというようなニュアンスの言葉を言ってしまうこともあります。反省もしますが、とにかく生きる力を身につけてほしいですね。社会に出れば怒る、怒らない以上に、仕事ができなければ見捨てられてしまう。そうならないためにも私が関わった生徒たちはその中で、愛されキャラといった個性を身につけてほしい。フラワーデザインが人を癒してくれる、楽しませてくれるように、魅力ある人になってほしいですね。

    ともすれば高圧的と受け取られかねない指導の仕方の裏には、次のステップのためのいわば予防線を教師として張っているのではないでしょうか。社会に出てしまえば、導いてくれる先生はいない。新しい世界を切り開かねばならない。花が好き、ならとことん花について学んでほしい。それで失敗しても次に行けばいい。そのための精神的な強さを育ててほしいというのが、池戸先生の狙いのように考えます。自分自身もストレスで逆流性食道炎になっても目の前で花にひたむきに向き合っている生徒たちが素晴らしいと言えるところに池戸先生の強さが感じられます。池戸先生が所属する園芸流通科で行われている「花束を君にプロジェクト」。被災された石川県にも花を届けに行きました。花をとおして人を喜ばせる、その思いは岐阜を越えて全国に広がりつつあります。