>  Interview   >  兵庫県立有馬高等学校 農業クラブ フラワーアレンジメント班

一般の高校生と違うこと。休日の過ごし方はまったく変わらないけれど、フラワーデザイン部に入ったことでちょっと違った世界が。1つ、花に詳しくなる。でも、周りに花の名前を連呼すると引かれてしまうことも……。それでも花を通して、かけがえのない仲間ができるのが2つめ。もう1つは、フラワーデザインが作れること。部で練習しているなら当たり前と思いますが、いきなり花束なんて一般の高校生の前で作ったらみんな驚くのでは。そんなフラワーデザイン部あるあるも入れて、3年間を駆け抜ける有馬高等学校のフラワーデザインの部活をご紹介します。

目次

    兵庫県立有馬高等学校
    農業クラブ フラワーアレンジメント班

    創立1896年。有馬農林学校を前身として始まった有馬高等学校。まもなく130周年を迎えます。武庫川右岸に張り出した丘陵地、高校は三田城跡に建ち、建築物は残っていないもののお堀を活かした池など、その名残をとどめています。2000年に学科変更が行われ、現在、人と自然科と総合学科の2学科。この時、有馬高等学校にフラワーデザインを学べる授業が開始。その後、フラワーアレンジメント班も創部され、県内で花を通したボランティア活動、数々のコンテストに出場し優秀な成績を収めています。

    今回お話を伺ったのは、農業クラブ フラワーアレンジメント班に在籍する下林遥那さん(以下、下林さん)と板谷由菜さん(以下、板谷さん)の2年生コンビと、顧問である前西隆彦先生。授業を見学させていただきつつ、貴重な部活動の時間に花への想い、NFD全国高校生フラワーデザインコンテストへの意気込みなどをお聞きしました。

    板谷由菜さん 2年生
    下林遥那さん 2年生

    フラワーデザイン部(フラワーアレンジメント班)入部のきっかけ

    下林さん
    2つ上の姉が有馬高等学校のフラワーアレンジメント班に在籍していました。現在、姉はフラワーデザインを学ぶため大阪の専門学校に進学しています。そんな姉が高校でフラワーデザインを楽しんでいる様子を間近で見ていて、私も入部しました。制作した作品を家に持ち帰ってくることもあり、俄然興味が湧いたのを覚えています。

    板谷さん
    有馬高等高校に入学後、フラワーデザインができる部活を知りました。そこで、体験入部してみたところ、先輩方からコサージの作り方を教えていただきました。「楽しい! もっとやってみたい!」と思って入部しました。その時作ったコサージは今も大切に家に保管してあります。

    実際に入部してみて

    下林さん
    ただ、楽しいだけでなく、フラワーデザインについて基礎から応用まで幅広く学ぶことができるので、とても有意義です。フローラルアートという選択制の授業があり、部活動と合わせると、より深くフラワーデザインを学べていると思います。

    選択制の授業では中嶋祐花先生に教えてもらい、部活では前西隆彦先生により技術的な面などをさらに指導いただいています。選択制のフローラルアートの授業ではいくつかのグループに分かれて制作などを行うのですが、各グループに1人は部活の子がいます。そのため、私たちが中嶋先生のお手伝いとして、ほかの子たちに作り方を教えることもあります。

    板谷さん
    部活動をしているため、授業でほかの子に教えることがありますが、地域のボランティア活動などで、一般の人たちにもコサージ作りなどを教えることもあります。教えるだけでなく、コンテストなどにも参加していますので、本当に充実しています。入部してみたら、地域のボランティア活動やコンテストなど、もっともっと様々なことにチャレンジしたい、という気持ちが強くなりました。

    下林さん
    地域のイベントで教えていて、参加している子が「有馬高等学校進学を考えています」と言ってくれた時は素直にうれしく思いました。やってて、よかった! みたいな(笑)

    板谷さん
    ほかにも、兵庫県の県庁緑化活動は楽しいです。毎月県内の担当校が持ち回りで県庁に作品などを展示するんです。有馬高等学校は令和5年に兵庫県教育庁から感謝状をいただきました。内容は、県庁のロビーに作庭したり、作品を展示したり。私たちの部が当番になった時には、大きなオブジェ作品を作り展示しました。ふだんコンテストなどでは、先生にいろいろ相談しながら考えていきますが、この県庁緑化ではデザインも私たち生徒だけで考え皆でわいわいできたのでとても楽しかったです。こういう活動は部活を続けていてよかったなあ、と感じます。

    フラワーデザインの楽しさ

    下林さん
    板谷さんを含め仲のいい部活仲間4人でいつも行動しています。ある時、友達の1人が花の名前をあれもこれも間髪入れずに言った時、周りにいた子に「気持ち悪い」といわれたんです。私たちの間では普通のことなのですが……。そんなこともあり、花について話すなら、やっぱり部活の子がいいですね。休日は4人組で花屋さんへ行こうなんてことになったり(笑)。休日の楽しみ方は、ショッピングしたり、会食したり、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行ったりと、普通の高校生と変わりません。

    板谷さん
    15時30分に授業が終わり、夏でいえばだいたい18時30分まで部活動をしています。フラワー装飾技能検定の受験ともなると、夏休み中も練習しています。授業に部活動にと花に囲まれた高校生活ですが、全然いやにならないですね。毎回新しい学びがあって、毎回違うものが作れるので、楽しいです。

    下林さん
    フラワー装飾技能検定3級の資格を取得できたのも結構自慢です。資格を取得した時には、中学校時代の友人に自慢したくらいです。ましてや高校生がフラワーデザインの作品が作れるというのは、かっこいいと思っています。

    フローラルアートの授業風景

    NFD全国高校生フラワーデザインコンテストへの意気込み

    下林さん
    2007年から現在に至るまで、有馬高等学校はNFD全国高校生フラワーコンテストで常に上位入賞を果たしてきました。こうした伝統は、先生の指導もそうですが、有馬高等学校の生徒の個性が強いことが影響しているかもしれません。フラワーアレンジメント班以外でも芸術家みたいな子が多くいるような感じがします。そうした校風がフラワーアレンジメント班にも流れているのかなと。私は第19回のコンテストに出場しましたが、残念な結果に終わってしまい、本当に悔しいです。この悔しさをバネに、今回こそは指導してくださっている先生方に良い結果を報告できるように頑張りたいです。「先生の教えは無駄じゃなかったよ」と言いたいですね。

    板谷さん
    私は昨年、NFD銅賞を受賞しました。さらに高みを目指したいと思います。それとともに、自分の納得できるような作品を作って、完成した時に良かったと思える作品を作ることがまずは目標です。

    学校の掲示板に、第19回NFD全国高校生フラワーデザインコンテストに出展した作品が張り出されています。今年20回目を迎えるコンテストでは出展者全員の入賞が期待されます。

    今後の目標、将来について

    板谷さん
    これからも部屋に花を飾るなど、自分の生活の一部に花を取り入れて過ごしたいと思っています。私は、広がりがあって、成長するにつれてはみ出していくような作品が好きです。デザインを考えるのはやはり難しいですが、引き出しをたくさん持てるようにしたいと思います。とはいえ、私は植物だけでなく、動物も好きなんです。将来についていろいろ悩みましたが、将来は動物関係の仕事をしたい。ドッグトレーナーに憧れていて、現在、下林さんと一緒に動物関係の専門学校のオープンカレッジを回っています。

    下林さん
    私も板谷さんと一緒で動物関係の専門学校へ行こうと考えています。フラワーデザインは職業にするというのではなく、趣味、特技の一つとして今後も続けていきたいと思います。自分の部屋に花を飾るのは好きですが、人にプレゼントするのも大好きです。最近では、離れて暮らす祖母へアレンジメント作品をプレゼントしました。祖母は花に関わる仕事もしたことがありますので、とても喜んでくれました。

    NFD全国高校生フラワーデザインコンテストでは、常に上位入賞者を輩出する有馬高等学校。授業のカリキュラムにフラワーデザイン(フローラルアート)を取り入れていることからもその技術の積み重ねが素晴らしい結果を生み出しているのは想像に難くありません。生徒も伸び伸び自由に、創作活動を楽しみつつ、地域のボランティア活動にも積極的な印象です。教えるという喜びも高校生のうちから同時に味わえるのが、有馬高等学校 農業クラブ フラワーアレンジメント班の特徴なのでしょう。この有馬高等学校の生徒にフラワーデザインをする喜びを与えたのが、前西隆彦先生です。その前西先生に有馬高等学校のフラワーデザインの特徴について話していただきました。

    有馬高等学校にフラワーデザインの授業を開始

    現在、特別非常勤講師として有馬高等学校に在籍し、「農業クラブ フラワーアレンジメント班」の指導をしています。有馬高等学校では選択制の授業科目としてフローラルアートというフラワーデザインを学ぶ授業があります。きっかけは2000年に行われた学科変更。それまであった緑地園芸科、生産流通科、家政科、生活情報科を廃止して、人と自然科、総合学科の2学科になる時に、新たな授業をということで、フラワーデザインを取り入れました。

    私自身も有馬高等学校の卒業生です。有馬高等学校は1896年創立の有馬農林学校を前身とした農学校。実家が農家であっことから農業が学べる有馬高等高校に進学しました。その後、野菜や花の栽培を指導する教員として有馬高等高校に勤めることに。勤務していた時に学科変更が行われ、もう一人の先生とフローラルアートというフラワーデザインが学べる授業を作りました。とはいえ、農業についてはプロでしたが、フラワーデザインの指導は経験がありません。そこで、学科変更が行われる前に、大阪の職業訓練学校でフラワーデザインについて学びました。仕事終わりや休日を利用して電車で通いフラワー装飾技能士の資格を取得。当時40代後半の私がカーネーションなどをもって電車で移動する姿はどのように映ったことでしょう。思い出しても赤面します。その間にフラワーデザイナー1級の資格も取得することに。この時NFDの先生とも知り合うことができ、貴重なフラワーデザインに関する教材をいただくといった幸運にも恵まれました。テキストもNFD発行のものを使用していますよ(笑)。

    有馬高等学校にとっては貴重な財産になっているのではないでしょうか。

    フローラルアートでの授業は、主にフラワー装飾技能士3級取得を目指しながらフラワーデザインを学ぶというもの。それが、もっと学びたいという生徒が増えたことから始めは同好会のような形で放課後デザインの指導をしていましたが、その後人数も増え、正式な部活動となりました。以来24年、有馬高等学校のフラワーアレンジメント班とともに時を刻んでいます。現在、授業は中嶋祐花先生が主に担当し、私は部活動の指導という形ですが、部活動としてのすみ分けは検定指導、コンテストなどの大会は私が行い、地域のイベント参加などは中嶋先生が行っています。

    農業クラブ フラワーアレンジメント班での指導法

    24年にわたるフラワーデザインの指導ですので、多くの卒業生が現在も花業界で活躍しています。先輩方が在校中に制作した作品などを参考に、その先輩たちの努力や経験、成果を学び、自身のフラワーデザインの技術向上に活かせるような指導を行っています。 農業クラブは、人と自然科の生徒のみが所属できるクラブ。その一つにフラワーアレンジメント班があります。とくに大切なのは、反復練習です。コンテストにしても、検定にしても、本番で実力を発揮するためには何があっても動じずいつもと変わらず作れること。もともと興味があって入部する子たちなので、放っておいても自分たちで学習しますし、創意工夫します。あとは高校生という経験のなさを取り除くには反復練習が必要だと考えます。フラワーアレンジメント班では、基礎の定着、反復練習、生徒の創意工夫を引き出す、この3点を重視し、指導を行っています。また、年齢が離れていますので、できる限り同じ目線で話すように心がけています。
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    NFD全国高校生フラワーデザインコンテストへの想い

    生徒たちが先生役となって、地域イベントでコサージ作りを指導したり、県などの要請で公共施設に展示するアレンジメントを制作したりと、花を通して、地域に根付いた活動を続けているのは、フラワーアレンジメント班の強みであると思います。それとは別にコンテストへの参加も魅力だと思います。とくに産業教育フェア、そしてNFD全国高校生フラワーデザインコンテストについては力を入れています。NFDが主催する高校生フラワーデザインコンテストは、全19回のうち、17回出場。そのうち生徒が入賞(ノミネート賞含む)した大会数は15回。第18回大会では金賞、銀賞をすべてうちの生徒ということもありました。生徒が楽しく、それでいて真剣に花と向き合ってきた結果だと思います。現在部員は、1年生3人、2年生5人、3年生3人の11人です。次のフラワーアレンジメント班を担う生徒が来年も入ってくるように、NFD全国高校生フラワーデザインコンテストは皆で頑張っていきたいと思います。

    有馬高等学校のフラワーデザインとともに歩んできた前西隆彦先生。2019年には、三田市にゆかりのある名匠や優れた技能者を称える「三田市技能金襴賞」をご自身も表彰されました。今や有馬高等学校を飛び越え、周囲に波及。兵庫県立播磨農業高校、兵庫県立農業高校でフラワーデザインを教える先生方も指導されたといいます。前西隆彦先生がいることで、フラワーアレンジメント班は伸び伸びフラワーデザインの技術を開花させつつ、他校へも広がっていく。少子化と叫ばれる時代であっても、兵庫県のフラワーデザイン人口は高校からどんどん広がっていくかもしれません。

    過去の「NFD全国高校生フラワーデザインコンテスト」での入賞者プレートの数々