>  Interview   >  静岡県立田方農業高等学校 フラワーデザイン部

高校生活で夢中になれるもの。といえば部活動が挙げられるかもしれません。運動部から文化部まで幅広いジャンルがありますが、ここで紹介するのは花を使った部活動。そう、フラワーデザイン部。3年間という貴重な時間を花とともに成長していく。夢中になって花を追いかけるそんな高校生。そして、指導をする先生にフラワーデザインの想いを語っていただきます。

目次

    静岡県立田方農業高等学校 フラワーデザイン部

    静岡県田方郡函南町にある創立120年以上の歴史をもつ公立の農業高等学校。通称:田農(でんのう)。生産科学科、園芸デザイン科、動物科学科、食品科学科、ライフデザイン科の5学科10コースがあり、実験実習を大切にし、地域を支える人材育成を目指しています。フラワーデザイン部は、農業部・運動部・文化部とあるうちの農業部に含まれ、フラワーデザイナー資格、フラワー装飾技能士、園芸装飾技能士の取得に加え、フラワーデザインコンテストなどの大会に積極的に参加しています。

    今回登場するのは、数々の受賞歴を持つ鈴木芽生さん(3年生)と顧問である赤池章助さん

    田方農業高等学校フラワーデザイン部は、技能五輪フラワー装飾部門で5年連続メダル獲得、第2回高校生花いけバトル全国選抜大会準優勝、2023年には全国高校生押し花コンテスト10連覇と輝かしい成績を残しています。NFDが主催する全国高校生フラワーデザインコンテストでも歴代入賞者を輩出。押し花コンテスト10連覇の偉業を達成した時のメンバーでもある鈴木芽生さんも、第18回NFD全国高校生フラワーデザインコンテスト奨励賞、関東東海花の展覧会銅賞を受賞。ほかに、技能五輪全国大会にも出場するなど、その活躍は目を見張ります。そんな鈴木芽生さんが打ち込むフラワーデザインについてお聞きしました。

    鈴木芽生さん(3年生)

    フラワーデザイン部入部のきっかけ

    中学生の頃は、美容と調理に興味がありました。田方農業高等学校にはライフデザイン科フードコースという調理が学べるコースがあったので入学。はじめは、被服手芸部に在籍していたのですが、活動は週に1度1時間だけなので物足りなく感じていました。 私には姉がおり、同じ高校でした。その姉がフラワーデザイン部に所属していて、たくさんの賞をとってくる。それがうらやましくて……。それで姉が在籍するフラワーデザイン部をのぞかせてもらいました。そこで花の活用方法を学び、フラワーデザインの面白さに気づき、1年生の夏に転部しました。

    実際に入部して感じたこと

    活動は水~土曜日の放課後。18時30分までで一旦終了になりますが、残る場合もあります。コンテストなどの大会が近づくと月曜日から活動でき、許可されれば日曜も学校で活動できます。それでも終わらない時は、自宅でつくることも。常にフラワーデザイン、花が私の中にあります。毎日忙しいですが、遠征などさまざまな大会を経験でき、そのたびに成長を実感することができます。フラワーデザイン部に入ったことで、高校生活が充実して楽しいです。 日曜日は、部活動が休みなので、そんな時は友達と食事にいったりしています。でも、卒業したフラワーデザイン部の先輩と会うこともあり、植物園やガーデンに行くこともあって、ほぼ花に触れる生活ですね。

    フラワーデザイン部で得られたもの

    いろいろな大会に参加でき、結果が出ることで自分に自信がつきました。作品をつくる時にはどうすればよくなるのか、と試行錯誤を繰り返しながら臨んでいますが、それも楽しんで制作しています。その中でアイデアがひらめき、テクニックが身についているのではと思います。1年生が入部して初めての作業が、押し花のタペストリー制作。母が美容師でもあったことが影響しているのかもしれませんが、もともと手先が器用なほうで、細かい作業などは得意です。

    第18回NFD全国高校生FDC 奨励賞作品画像

    関東東海花の展覧会 銅賞作品画像

    田農フラワーデザイン部ならでは

    押し花のタペストリー制作は、田方農業高等学校フラワーデザイン部ならではだと思います。デザインは部のみんなで絞り出しています。それをスケッチして、赤池先生にも見てもらい、形にしていきます。10連覇を達成した時の「海の恵み」のテーマは海鮮丼でした。中央に大きなエビを配置したもので、その赤が退色しないようにクエン酸で発色するなどの工夫を先生とともにみんなで考えていきます。そんな中でも、押し花を貼っていく作業が一番大変です。花は壊れやすく、パーツはまちまちの大きさ。とくに1年生にとってこの作業は難しいと言えます。ここに技術の差が出てしまうので、2年生、3年生がそのやり方を伝授するというのが、代々受け継がれています。そうすることで、結束力も高まり、チームワークが生まれます。個人ではなく、みんなでつくり上げるという楽しさも部活動ならではだと思います。

    今後の目標、将来の夢

    限られた時間ですが、フラワーデザインコンテストなどの大会でこれからも賞をとりたいですし、将来はやっぱり常に花が身近にある生活をしていきたいです。3年生なので進路について考えていて、花、調理、美容それぞれの専門学校などのオープンキャンパスに行きました。その中で、美容の専門学校進学を決めました。姉はすでに花の道に進んだことや、母の仕事を見て育ったことが大きな要因かもしれません。でも、花は生活の中で、何らかの形で携わっていきたいと思います。 花とともに過ごす高校3年間。フラワーデザイン漬けの毎日を送る鈴木芽生さんですが、花と向き合う時には「今よりさらに美しい姿になってほしいという気持ちで接しています」と。花に癒されるだけでなく、夢中にさせてくれた花へのリスペクトも感じられます。 そんな生徒たちが伸び伸び活動できる環境づくりをするのが、フラワーデザイン部顧問の赤池章助さんです。NFD本部講師・1級フラワーデザイナーの資格も持つ赤池先生は、田方農業高等学校のフラワーデザイン部を創部した立役者。創部のご苦労話から指導方法について話していただきました。
    赤池章助先生

    フラワーデザイン部、創部の経緯

    創部して13年が経ちます。約20年前、山梨県北杜市の高校で農業(園芸)の教員として働いていました。当時は、科目「草花」を担当。草花は植物の栽培管理だけでなく、園芸デザインという分野があり、フラワーデザインはその分野の中の一つでした。勤務する学校に、フラワー装飾技能士3級の取得やNFD全国高校生フラワーデザインコンテストに挑戦、指導している先生がおり、その先生と一緒にフラワーデザインを生徒に教え、学ぶ機会を得たことで指導する面白さを知ったのがそもそものきっかけです。 ある時、両親が体調を崩したこともあり、静岡県へ引っ越しすることに。以来、静岡県の教員採用試験を受け直し、現在の田方農業高校で勤務しています。 フラワーデザインが学べる専門学校は花の好きな生徒が集まります。しかし、農業高校はそうではありません。植物に興味がない生徒も数多くいます。そのため、フラワーデザインを授業で教えることは難しい。いかに興味を持たせるか、専門的に教えるためには創部しかないと考えました。 当時は私も若く、出る杭は打たれ、なかなか創部が認められず、苦労しました。しかし、諦めずにあるコンテストで日本一になりました。それでも認められなかった時は、ただただショックでした。創部の前に、育てた生徒は卒業してしまう。この繰り返しで、毎年一からの活動でした。それでも、自身を高める行動を続け、生徒が結果を出す度に情報発信を繰り返しました。そこから正規の同好会となり、正式に部活となりました。

    「なりたきは花のこころ」

    創部にあたり、チームとしてのフレーズも必要と考え、大会やコンテストに出た時に目立つようTシャツを制作することに。 植物への想いを込め、どんな文字にするか悩みました。私の父が書家であることから相談し、一つの作品をお願いしました。そして、「なりたきは花のこころ」が生まれました。意味はそのまま、花の気持になりたい、そんな気持ちを持って活動したいと言う意味です。

    指導する中でかける言葉

    部活動で私が不在の時は、部長が代わりとなって指示を出します。重要な役割であるため、毎年部長のお願いごとを一つだけ聞いています。ある代の部長が、全員を表彰台にのぼらせてくださいとお願いしてきました。それ以降、毎年同じお願いをされ、実現させるために多くの大会、個人、団体での活動に取り組むようになりました。 時代が変化していく中で、指導をするのに配慮を要する生徒も増えています。性格はバラバラで十人十色。何故、入部したのだろう? と思う生徒もいます。フラワーデザインを見ても花束やブライダルブーケなどの作品、華道やミニガーデンなどの園芸装飾、押し花の作品制作、生徒にとって得意な分野と不得意な分野があります。全体に掛ける言葉以外に、個に合わせた声掛けを心掛けています。田方農業高等学校フラワーデザイン部はただ勝利するためだけでなく、楽しく取り組むことを目標にしてきました。その結果が、現在に至っているのではないかと思います。

    プロセスの重要さを伝える指導

    指導で大事にしている具体的な言葉は「百聞は一見にしかず」、農業でいうと「使っている鍬は光る」です。コンテストを例に挙げると、まずデザインを描き、それを起こします。生徒も私も実際に作品を作ると、デザイン通りに行かないため必ず壁にあたります。フラワーデザインではなくても参考程度に何かしらの作品を観た方が良いと伝えています。観察は大事です。もちろん、写真より実際の作品を見たほうが得るものは大きい。そして、真似てでも一度作ってみることが大切です。そうすることで難しさを知ります。その課題をどう解決するか、自分なりの答えを出す。もちろん私ができるアドバイスはします。創作活動で得た知識と技術を重ねると、自発的に作品制作を行い、作品に深みが増し、結果として入賞に繋がっていくことに。この繰り返し、プロセスが大切だと伝えています。指導者に言われるがまま仕上げた作品は、勝利のためには必要な時もありますが、制作でなく製作だと考えています。

    コンテストなどの大会に向けたスケジュール管理

    大会に向けたスケジュール管理は、とても大変です。高校生なので、授業を欠席することもあるため、公欠願いの作成や保護者への出場承諾書、集金などのお便り作成、コンテスト開催地までのチケットや宿泊先の手配など、年間10回程度はあるので、それだけでも多くの時間が割かれます。私立でなく公立校なので、部活動は仕事ではないという考え方があります (生徒を引率する場合は仕事ですが)。平日の部活動指導に手当はなく、残業代も出ません。家族に文句を言われながらも、花と生徒に向き合っています(笑)。 仕事と並行しながらさらに、大会から逆算して花材の仕入れ、デザインと技術指導などを行います。そして、高校生に費用の捻出は極力避けたいという思いがありますので、コストはいかに抑えるか常に考えています。 生徒には多くの人に支えられているからこそ、部活動ができていると伝えています。そのため生徒は、感謝の気持ちを持って、植物と向き合ってくれていると思います。 技術の反復練習にも言えますが、植物も形がなくなるまで、活用しています。

    フラワーデザイン部で学んだ生徒たちへ

    高校3年間という時間は、人生においてわずかな期間です。3年間は1095日ありますが、田方農業高校の3年間の登校日は580日程度。フラワーデザイン部の生徒は引退が2月、家庭学習日、卒業式間近まで走るので800日以上部活動を行っています(笑)。それでも日々の高校生活は、大人になって振り返ると一瞬、閃光のような時間です。その時間の中で、人生の支えになる言葉や経験を授けることができたら教師冥利に尽きます。これからの時代、生きていくだけでも大変な時代だと感じます。そんな時代を駆け抜けていく生徒たちに、元気でたくましく人生を謳歌してもらいたいと願っています。植物に携わる仕事でなくてもフラワーデザイン部で得たことを胸に、自分の輝ける場所で自分にしかできない仕事、活躍を期待しています。

    花を通して生徒へ一番伝えたいこと

    花は皆の身近にあり、生活を豊かにしてくれるものだと伝えたい。そして、フラワーデザイン部である生徒に対して、ものづくりの楽しさを経験し、花、そして部活動を通して、何か熱中できるものを探してほしい。理想を言えば、人生でこれだけは譲れない、誰にも負けないという気持ちをどんな分野でもよいので持ってほしいです。

    赤池先生は日々仕事に忙殺されながらも、毎週火曜日には仕事を終えると、静岡県の伊豆から山梨県の甲斐市までレッスンに通っています。職場からだと片道約135キロ。山梨県の教諭時代から通っていた渡辺ひさ子先生が主宰するAphrodite design roomの生徒としてフラワーデザインの研鑽に努めています。授業や部活動でも助言をいただくことしばしばですが、ここで身に付けた技術力は、植物を見つめ直す重要なきっかけとなってると語ります。赤池先生自身も生徒のように大会に参加し、マネージメントだけでなくプレーヤーとしても日々フラワーデザインのすばらしさを生徒たちに伝えています。

    ※この記事の情報はすべて、取材当時のものです。