輸入花きの魅力(後編)

流通

前編では、輸入品の現状や優位性などについてご紹介いたしました。後編では、輸入品の生産地の特徴や昨今の傾向についてご紹介したいと思います。

どんな国から?

日本に流通する花きの輸入品は、どのような国や地域から輸入されてくるのでしょうか。2023年の植物防疫統計を見ると、数量順に中国、コロンビア、マレーシアと続きます。

【輸入国ランキング】(植物防疫統計2023年)

このランキングをご覧になって、共通点にお気づきの方もいらっしゃるかもしれません。前編でご紹介した通りですが、このTOP10の国と地域、すべてがコーヒーベルトといわれる地帯に位置しているのです。中国で花き生産が盛んな昆明も北緯25度でほぼコーヒーベルトにのっています。TOP10の国と地域のほかにも、グアテマラ、スリランカ、メキシコ、ウガンダ、パナマ、ペルー、コスタリカ、エル・サルバドル、タンザニア、ジンバブエなどから多くの花が届くと聞けば、コーヒーの生産地と被ることに気づかれるでしょう。もはや、コーヒーベルトはフラワーベルトと呼ばれてもおかしくないかもしれません。
なぜ、赤道周辺のコーヒーベルトに近い地域でたくさんの花が生産されるのでしょうか。

※詳細は株式会社大田花き花の生活研究所 『フラワービジネスノート2025』をご参照ください。

花生産が盛んな立地的ワケ その①

赤道を中心とした北緯南緯25度のコーヒーベルトと呼ばれる地帯では、暑すぎないか気になりますが、これらの花は、多くの場合標高1500~2700メートルほどの高地で生産されているのです。花生産が盛んな中国の昆明は標高およそ1900メートル前後、あるいは日本に多くのカーネーションを輸出するエクアドルの生産地は赤道直下ながらも、標高2400メートルほどのところに位置しています。ベトナムやマレーシアなどでは都市部の平地で栽培されているものもありますが、多くは標高1500~2000メートルの高原で生産されています。それらの高原は過去に欧州の人たちにより避暑地として開発された場所でもあり、リゾート地としても有名です。

このような条件の地域では、日中平均、昼は暑くてもせいぜい25℃くらい。何より夜温が10~15℃くらいまでしっかりと下がることがポイントです。このことで植物体がしっかり栄養(糖)を蓄えることができ、良い花が咲かせることができるのです。

花生産が盛んな立地的ワケ その②

赤道に近い分、太陽が真上を通るので、花芽がまっすぐ上に伸びやすい傾向にあります。また、日本のように冬至や夏至においても太陽の角度や日照時間に大きな変化はなく、周年朝6時から夕方6時頃まで日照量を確保できます。1年中、季節変化の少ない安定した気候の下、栽培管理ができるのです。

例えば、次の写真はエクアドルと日本のカーネーションの圃場ですが、どちらがエクアドルか、きっと察しがつくことでしょう。

上段がエクアドルで下段が日本国内の圃場(3月撮影、北緯34度くらい)です。国内の圃場写真は、太陽が最も低い位置を通る冬至を越えて成長してきた株なので、北緯の高いところに位置している分、赤道直下のエクアドルのカーネーションよりは、若干茎が傾いていることがわかります。太陽の方に向かって伸びているのです。
※国内圃場の写真は、全国屈指の生産者さんのものです。太陽に向かって伸びるのは植物生理上、必然の現象であり、斜めに生長するのがよくないわけではありません。緯度の違いを比較していただくためにご紹介いたしました。

このように気温・日照・湿度など花き栽培に適した環境下では、このように巨大なバラさえも商業ベースに生産できてしまうのです。 

(写真提供:Mr. Jeroen Oudheusden, Executive Officer, FSI)

人の身長よりも長いバラの生産地では、バラの開花位置が高すぎるため、生産者さんは写真のような下駄を履いて圃場を見て回ります。これは日本ではまず見ない光景です。
※写真はエクアドルのバラ生産農家

(写真提供:Mr. Jeroen Oudheusden,Executive Officer, FSI)

ちょっとよりみち

エクアドルという国名は、そもそもスペイン語で「赤道」を意味する「ecuador」に由来。ギリシャ語では「陽に焼けた人の国」という意味があります。世界の花の大産地は、国名に関連するほど太陽の光をたくさん浴びるようなところに位置しています。ちなみに、エチオピアの首都アディスアベバはアムハラ語で「新しい花」を意味します。

どのような花を輸入するか 日本独特のマーケット

次の2つのグラフは、日本が輸入した品目と世界で輸出された品目の金額を比較したものです(2023年)。

【日本が輸入した品目(データ元:貿易統計)】

【世界で輸出された品目(データ元:ITC)】

世界で輸出された品目ではその他の切花が最も多いのですが、この項目は多品目を含むのはさておき、単品では圧倒的にバラの流通が多いことがわかります。一方、日本が輸入するアイテムで多いのは、キク類とカーネーションです。バラは国内流通の約8割を国産で賄っていることもありますが、キク類やカーネーションは、国内の消費が増えるお盆、お彼岸、年末年始の需要のタイミングで大量に必要とされるアイテムなので、国内で生産するばかりではなく、マーケットで不足感がないように大量に輸入されるのです。

このグラフをご覧になっただけでも、日本のマーケットがいかに特殊であるか、その一部をご確認いただけると思います。

輸入品の昨今の特徴

前編でご紹介したように、輸入花きは1970年代前半にデンファレから始まりました。約50年たった現在はキク、バラ、カーネーション、ネイティブフラワー、アンスリウム、ラン類などを中心に、日本の花き流通のうち約30%を占めるほどになりましたが、近年はここから大きく増えていません。

一方で、国産切花の減少が著しく、最新の2023年の出荷量は約30.3億本と、農林水産省の発表統計上ピークであった1996年57.6億本に対し、実に53%まで減少しています。もちろんマーケットは品薄気味。しかし、円安も影響し、国内の品薄を解消するに足るほどには輸入花きは増えていないのです。

【切花輸入数量推移】 データ元:植物防疫統計

【国産花き(切花)の出荷量推移】 データ元:農林水産省

【輸入と国産花きの合計】

※輸入を足し上げてもなお、国産の減少分を補いきれていない。

輸入花きの中身を紐解くと、大品目であるキクとカーネ―ションが増加しているのが近年の特徴です。欧米のマーケットと比較すると、日本のマーケットではキクとカーネーションの需要が高いので、その需要を満たすために増えているのですが、それを支えているのは海上輸送です。

【輸入品目のシェア推移(数量)】 データ元:植物防疫

※輸入数量のうち、とりわけキクとカーネーションのシェアが伸びている。この10年でシェアが30%から38%に。バラは減少傾向、それ以外の切花のシェアはあまり変わらない。

日本に届く花きのうちもはや52%が海上輸送によるものですが、その背景には世界的な環境意識の高まりがあります。CO2の排出を減らそうと、EUでは飛行機をやめて船便にシフトする傾向になっており、日本に届く花きにおいても然り。また、これはCO2削減のみならず、輸送のコストダウンにも繋がっています。

さらには、輸送中の温度変化が少なく、確実なコールドチェーンの構築ができるのも海上輸送のメリットの一つです。エア便では基本的に温度管理ができません。上空を飛んでいる時は必然的に冷えるかもしれませんが、空港での積み替えや荷下ろしの際は、どうしても外気にさらされます。夏場、炎天下の外気に当たれば、まさに庫内温度はアンコントローラブル。直射日光に少し当たっただけで、箱の表面温度は簡単に40℃くらいになってしまいます。そのような「血糖値スパイク」ならぬ、「庫内温度スパイク※」は品質に大きなダメージを与えるリスクになります。
※温度スパイク:急激な温度の上昇を温度スパイクという。

しかし、リーファーコンテナによる海上輸送の場合であれば、0.5~1.0℃単位で温度を管理し、庫内の空気組成をコントロールする(酸素濃度を下げる)ことで、植物の呼吸を一時的に止めることができます。呼吸が止まれば、呼吸で消耗するエネルギーを節約することになるので、水揚げをしてから長持ちするのです。

リーファーコンテナ 一例

輸送中のヒートショックによる温度スパイクも回避でき、これまでよりさらに外観、日持ちを含めた品質保持が可能になるのです。輸送時間が長くてもなお、低温輸送を維持してヒートショックが少ないことの方が品質維持には大切な要素なのです。皆さんがお気づきか否かにかかわらず、輸入花きは以前にも増して安定した品質で届いているのです。

輸入品の評価について

さて、輸入品の評価はどうでしょうか。品目によって輸入品の平均単価の方が高いものもあれば、輸入品の方がお手頃価格のものもあります。それは品質のみならず、季節とのマッチングやユニークさなど、総合的に判断された結果です。

市場では、輸入品に対する偏見なく、国産と公平に評価されます。見た目の美しさのみならず、規格の揃い、日持ち、汎用性、希少性など諸々鑑み、総合的にその花がどうであるかを見ています。皆さまにも、ぜひ審美眼をもって輸入品と国産をフェアに評価していただきたいと思います。

最後に

輸入品は、日本にはないユニークなものとして流通するものもあれば、栽培に有利な環境を生かして数量的に国内流通を補完するために輸入されるものもあります。輸入品は国産花きと競合しつつも協業しているのです。

花を生けるとき、生産地を気にすることはあまりないかもしれません。しかし、その花の出自を知って、手元に届くまでのヒストリーを想像しながら生けるのも、また乙なことではないでしょうか。
(文責:株式会社 大田花き花の生活研究所 内藤 育子/写真:株式会社 大田花き花の生活研究所/株式会社 クラシック/Mr. Jeroen Oudheusden, Executive Officer, FSI) 

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