輸入花きの魅力(前編)

流通

輸入の花材にどのようなイメージをお持ちでしょうか。キングプロテアのような存在感のある花? それともランやヘリコニアのようなトロピカルなイメージの花? 抱く印象はそれぞれに異なるかもしれませんが、国産切花流通のうち輸入品が約3割を占める今日、輸入花きの存在なしには日本の切花流通は成り立ちません。今回は、花き流通に必須の輸入品について、紹介させていたただきます。

輸入量の現状

現在の輸入花きは年間約12億本、金額にして約479億円(2023年、サカキ・ヒサカキ、ドライフラワーを除く)がキク・カーネーション・バラなどの切花です。

【図1】切花輸入金額推移(データ元 財務省)
デンファレ

そもそも、国内における花き輸入は1970年代前半、タイ王国からのデンファレを皮切りに始まりました。当時は国産が99%で輸入品は1%。品目はデンファレのみでした。花きの輸入開始から約半世紀を迎え、現在の国内切花流通のうち本数にして約29%が輸入品です。また、花きの輸入品に対する関税は、一部枝物、葉物を除き0%。それでもなお、輸入品が30%前後にとどまっている理由は、国産花きの競争力が高いから、あるいは、国内の需要に適った品目品種を生産しているからといえるでしょう。

しかし、輸入品には国産にないアドバンテージがあります。例えば、大きなところでは次の5つにまとめることができます。

  1. 花き生産に適した気候の下で生産できる
  2. 充分な生産面積を確保し、大量生産できる
  3. 海外の大規模産地と日本の需給バランスに合わせた出荷交渉ができる
  4. 日本にはないユニークな植物を出荷できる
  5. 世界のトレンドをつなぐ

1. 花き生産に適した気候の下で生産できる

世界の花き生産はコーヒーベルトに位置する国に集中しています。1年中、季節の変化が少ないので、安定的に生産することができることが大きなアドバンテージです。

コーヒーベルト ※赤道を中心に北緯25度、南緯25度辺りの地帯を指す。コーヒー豆の生産に適した気候で生産が盛んな地域が多くあることからコーヒーベルトと呼ばれる。
エクアドルの生産圃場
赤道直下の標高の高い所にあるフローレキッサ
写真提供/(株)クラシック
バラの生産圃場(エクアドル)
写真提供/(株)クラシック
オンシジウムの生産圃場(台湾)
バンダの生産圃場(台湾)
バラの生産圃場(中国)
バラの生産圃場(中国)

詳細は後編でご紹介いたしますが、日本に輸入されるは花の生産国のTOP10はすべてコーヒーベルトに位置しています。もはや、コーヒーベルトフラワーベルトと呼ばれていいかもしれません。

2. 充分な生産面積を確保し、大量生産できる

圃場の終わりが見えないほど大きな面積を確保し、企業化して、大量生産しているケースがほとんどです。大規模なので、どの国においても潅水は自動運転がほとんどです。潅水ばかりでなく、圃場内の温度管理、湿度、葉の温度、日照量などを自動管理でしているところも多くあります。

バラの生産圃場 圃場の終わりが見えないほど

企業化している生産者の中には、従業員さんへの福利厚生として、食堂ではランチが無料で振る舞われたり、圃場の中にバスケットボールなどのリフレッシュスペースが設置されていたり、医療機関や銀行、礼拝施設、スーパーマーケットなどが設けられているところもあります。エクアドルには、従業員さんの健康維持と意欲向上のために、マラソン大会を開催する生産企業もあります。
エクアドルの農園内にあるこの銀行は、農園が経営している金融機関で、従業員に対するローンも提供しています。

従業員用食堂
従業員向け銀行窓口
圃場内のバスケットボールコート
マラソン大会

フローレキッサ社(エクアドル)  写真提供/(株)クラシック

3. 海外の大規模産地と日本の需給バランスに合わせた出荷交渉ができる

海外から日本に花を輸入する輸入商社さんは、お盆やお彼岸、年末年始など、日本の需要期に合わせて大規模産地と交渉し、日本のマーケットに適した均質の品目品種を大量に買い付けて出荷します。つまり、「欲しいときに欲しいものを」、交渉次第でマーケットに投入できるというわけです。

※国内の切花は、お盆、お彼岸、年末年始、次いで母の日と需要が高く、その需要に合わせて輸入品も増える。2つのグラフを重ねると、需要と供給(輸入)の山が似ていることが分かる。

4. 日本にはないユニークな植物を出荷

海外では日本とは大きく植生が異なり、輸入商社さんはプラントハンターのようにユニークな花きを見つけては、日本のマーケットに紹介してくれます。例えば、南アフリカから出荷されるキングプロテアやピンクッションなどは良い例でしょう。

キングプロテア
ピンクッション
プロテア
バンクシア

また、自生地に近い環境であれば、日本では生産が難しい花きも、効率的に生産することができます。ラン類やアンスリウムなどの熱帯植物も、地域の環境を生かして有利に生産することができます。タイや台湾などから輸入されるデンファレ、オンシジウム、モカラ・アランダ、バンダ、ファレノプシスなどのラン類が良い例でしょう。

 輸入されるラン類(生産圃場にて)

5. 世界のトレンドをつなぐ

海外のトレンドの花材を日本に紹介してくれることもあります。前回の染花でご紹介したレインボーローズは、そもそもはオランダから輸入されてきたものですし、今国内で当たり前のように流通しているナズナも、最初は輸入品が流通していました。このように世界と日本のトレンドを結び付けてくれる役割もしてくれています。

輸入品がなければ、わたしたちの作品の中で使えない花きもたくさんあります。これは、私たち生活者や花をいける人にとっては、何にも代え難い魅力でしょう。日本の花きマーケットを豊かにしているのは、まさに輸入商社さんのご尽力のお陰なのです。

 一方で、ディスアドバンテージがあることも否めません。

  1. 為替変動のリスク
  2. 海外の巨大マーケットとの競争
  3. 植物検疫のリスク
  4. 生産地の状況に大きく左右される

1. 為替変動のリスク

極端な円安が長く続くと、輸入商社さんの利益率は下がってしまいます。海外のものを買うには円が弱いと不利に働くからです。昨今の長引く円安傾向にもかかわらず、品薄な日本のマーケットに商品を投入してくださる輸入商社のみなさんには足を向けて寝ていられません!……という思いでおります。

2. 海外の巨大マーケットとの競争

米国やEUなど海外の巨大マーケットは、こぞってバレンタインや母の日など大量の花材確保に走ります。日本の需要期がそれらのマーケットの需要期と被るときは、たくさん買いつけたくても海外商社との競争で買い負けてしまうリスクもあります。円安ならなおさらです。

3. 植物検疫のリスク

植物検疫もまた、輸入花きが通らなければならない道でありながら、リスクになりえます。任意に抽出されたサンプルから虫が見つかれば(正確には、その「虫」も成虫ばかりでなく、幼虫、さなぎ、卵をいずれも含みます)、同じ品目品種のものは全量燻蒸処理されます。燻蒸処理は多額のお金がかかる上に、燻蒸して品質が上がることはありません。出荷前から細心の注意を払いますが、万が一、燻蒸処理となった場合にはコスト面からも品質の点からも大きなリスクとなりえるのです。

4. 生産地の情勢に大きく左右される

花き生産地では、ときに政治不安に揺れる国や地域もあり、また自然災害に遭う場所も多くあります。かつて、エチオピアでは政治不安から暴動が起こって、バラのハウスが焼き討ちに遭ったこともありました。

あるいは、予期せぬ大規模自然災害で、花きの出荷が止まることもあります。例えば2010年アイスランドで起きた大噴火で飛行機の離発着が止まり、日本に届くはずの年末の商材が届かなかったこともあります。本年4月には、ケニアで大規模洪水が起こり、国土の半分が被害を受けたというニュースがありましたが、ナイロビでも空港が浸水。日本に届くはずだった花きの保管庫も水浸しになり、一部出荷できなくなりました。
地球のどこか遠くで起きた自然災害は、報道の向こう側の話ではなく、私たちが日々使う手元の花きに直接影響してくることもあるのです。

輸送に時間がかかることも?

輸送に時間がかかることを心配される方もいらっしゃると思います。しかし、これは保冷設備の増強や幾度もトライアルした船便輸送など、輸入商社さんが投資を行ったからこそ、コールドチェーンを施し、品質の劣化を最小限に抑えています。現在においてはお取組みの成果があらわれ、ディスアドバンテージをクリアしているといえるでしょう。

後編に続く

(記/内藤育子・写真提供/(株)大田花き花の生活研究所 (株)大田花き (株)クラシック)

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