きれいな花だと思っていたら、実はその部分は花でなければ、花びらでもなかったと聞いて驚いたことはありませんか。有名なところではアジサイやポインセチアなどです。
実は花じゃなかった
例えば、アジサイの場合、きれいに色付いた部分は本来ガクで、装飾花と呼ばれます。本来の花は、そのガクの中心にあるほぼ認識不可能なほど小さい部分です。丸くなっている場合はツボミでこれから開花しますが、花が終わってしまっていることもあります。
あるいは、ポインセチアの華やかに色付いた部分は、苞(または苞葉:ほうよう)と呼ばれ、葉が変化した部分に当たります。本来の花は中心の黄色っぽい部分。よくそこからぷっくらとした透明な蜜が出ているのを見かけます。
このような「実は花じゃなかった」シリーズの花材は多く流通しています。観賞に値する“花のような”部分を学術的には花序(かじょ)といいます。ですから、実際に花でなくても通称「花」といって全く問題ありません。しかし、実は花ではなかった、では何だったのかを知っていたら、花を見る目が変わってくるのではないでしょうか。
パターンとして、
1.実はガクだった
2.実は苞葉だった
3.その他
に分けてご紹介したいと思います。
パターン1 「実はガクだった!」
・スターチス
(イソマツ科 原産地:ヨーロッパ・北アメリカ・地中海沿岸)
“実は花じゃなかった花シリーズ“の中で、最も取り扱い数量が多い花材といっていいでしょう。色付いている部分はガクで、ガクの中に白や黄色の小さな花がちょこんちょこんと咲いていることがあります。本来の花にはほとんど観賞価値がなく、ガクの実力が問われる花です。ガクですから、取扱いもそれほどナーバスになる必要がありません。また、暑さ・寒さに強く、観賞期間を長く確保することができます。
・アルケミラモリス
(バラ科 原産地:コーカサス、トルコ周辺)
花弁のように見えるグリーンの部分がガクで、八角形を構成しています。写真は顕微鏡によって拡大したものです。シベは確認できますが、花弁は退化してありません。
・アネモネ
(キンポウゲ科 原産地:地中海沿岸からヨーロッパ南部)
花びらはなく、花びらのように見えるのはガクです。ガクのように見える花のすぐ下についているのは葉です。開花とともに、花と葉の間隔が空いてきて、ガクではないことがわかります。
・クリスマスローズ
(キンポウゲ科 原産地:地中海沿岸からヨーロッパ中部、西アジア)
花びらのように見える部分がガクです。本来の花びらは、退化して蜜腺になりおしべの外側に並んでいます。
ガクは自然には落ちることがないため、ガクが落ちない⇒「学が落ちない」と、受験の縁起花としても提案されています。
・モルセラ
(シソ科 原産地:西アジア、シリア)
タコの吸盤のようにも見える独特でモルセラを印象付ける部分がガクで、本来の花はその中にある白いもの。香りがあります。
本来の花があってもなくても、切花の価値に変わりはありませんが、もし花を見つけたら香りを嗅いでみてください。
・ジンチョウゲ
(ジンチョウゲ科 原産地:中国南部、台湾中北部)
紫色の花びらに見える部分がガクです。外側は紫色に色付き、内側は光が当たるとキラキラします。本来の花びらは退化してなく、ガクを開くとおしべが見えます。
ガクを楽しむ植物の中には、アジサイ、スターチスなどドライフラワーに適しているので、夏のレッスンにも大活躍しそうですね。
パターン2 「実は苞葉(苞)だった!」
・クルクマ、ジンジャー
(いずれもショウガ科 原産地:熱帯アジア、アフリカ、オーストラリア)
花のように見える部分は苞です。上からのぞき込むと、その中に目立ちませんが、小さな本来の花を見つけることがあります。クルクマの苞は暑さに強く長持ちします。
・ハナミズキ
(ミズキ科 原産地:北アメリカ東部からメキシコ北東部)
真ん中にあるプチプチが本来の花で、4 つにきれいに開いた花びらのような部分は苞です。目を凝らしてよく見ると、あのプチプチも一つ一つ開花していることがわかります。
・ヘリコニア
(オウムバナ科 原産地:ペルー、エクアドル ほか)
赤く色づいている部分が苞で、本来の花はこの中にあります。苞の色や形は品種によってさまざまで、哺乳類と間違えそうなほど多毛なものもあります。
・ブーゲンビリア
(オシロイバナ科 原産地:南米)
切花としての流通はありませんが、鉢物や庭木として定番です。赤、ピンク、紫、白、オレンジなどに色付いた部分は苞で3 枚が一組(一重の場合)になっています。
その中心に咲く小さな白い花が本来の花です。南国や地中海リゾート地のイメージがあるように、暑さに強く、太陽の光を必要とする花です。
・アンスリウム、カラー
(いずれもサトイモ科 原産地:アンスリウム/熱帯アメリカから西インド諸島、カラー/南アフリカ)
中心に立つベビーコーンのような棒が本来の花の集合体。それを包むように広がるのが苞です。サトイモ科の苞を特に仏炎苞(ぶつえんほう)といいます。
・センニチコウ
(ヒユ科 原産地:熱帯アメリカから南アジア)
色付いた苞の間から顔を出す黄色い小花が本来の花です。英名をglobe amaranth といい、「しぼまない球体」を意味します。和名も千日紅といいますから、いずれの国においても長い間ふっくらと色付いた花として親しまれているということですね。
夏期のデザインに使うには強い味方です。最近はニュアンスカラーに染められたものも出荷されています。
こうしてみると、比較的熱帯に近い地域が原産の植物が多いでしょうか。熱帯植物は、花を大きく、長い期間咲かせるとエネルギーの消耗が激しいため、苞が色付いて昆虫や鳥と引き寄せるパターンが多いようです。太陽の光や熱から花を守るために、苞葉が発達したのかもしれません。苞葉も苞と同じですが、花序を作る葉のことを苞葉といい、その集合体を苞といいます。
それでは、上のどちらにも当てはまらない「花じゃなかった花」を3つほどご紹介したいと思います。
パターン3 その他
・ケイトウ
(ヒユ科 原産地:インド、熱帯アジア)
ひとつめはケイトウです。くねくねした部分は花軸(かじく;茎)が変形したもので、その下にあるケバケバとした部分が本来の花です。花びらはありません。切花で流通するときは、既に花の部分がタネになっているときがあり、そこを撫でるように削ると黒い種がぽろぽろと落ちてくることがあります。
・エキノプス
(キク科 原産地:欧州からアジア)
二つめはエキノプス(ルリタマアザミ)です。花ですがツボミの状態です。ツボミの時が最も観賞価値が高いという珍しいパターンです。開花してからもまた雰囲気の異なった花を楽しめますので、長い間観賞できます。
ちなみにエキプノスとはラテン語で「ハリネズミに似た」という意味です。言い得て妙ですね。
・スモークツリー
(ウルシ科 原産地:南ヨーロッパからヒマラヤ、中国)
最後に、これだけはぜひ知っておいていただきたいのが、スモークツリーです。スモークツリーのあのふわふわは、元は花首に当たる部分です。
春にとても小さな花が咲き、そのあとに石果(せきか)と呼ばれるタネができるのですが、そのタネを遠くに飛ばすために花首(正式には花柄:かへい)が伸びたものがあのふわふわです。
ちなみに、同じスモークツリーでも花序のないものは、「コチナス」(あるいはコチヌス)という名称で秋に多く流通します。
実は花ではなかった花が意外にもこの暑い時期に重宝することもあります。クルクマやスターチスなどはいい例ですね。日持ち日数の月別平均でいけば、最も成績が悪くなりそうな7月ですが、花ではなかった花も上手に作品に活用して、暑さ対策のストレス少なく生けていきたいものですね。
(記/大田花き花の生活研究所 内藤育子・写真提供一部/大田花き花の生活研究所)
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