初回は、日本フラワーデザイナー協会のNFD講師として活躍中の山﨑亮さん(東京城西支部)のインタビューをご紹介します。
個性的でアーティスティックな作品の数々と、そのデザインの発想力はどこからくるのか?そしてその秘めた想いとは…創作活動の根源に迫ります!
フローリストとして生まれて
花店の3代目に生まれて花に囲まれて育ち、父の働く姿を見てごく自然に花にかかわる仕事をしたいと思うようになりました。ただ学校を卒業後は、勉強を兼ねて経験を積みたいと考え、他の花店や仲卸、ホテルのブライダル系など花業界が中心でしたが、家業を継ぐまでの間さまざまな職にチャレンジしました。振り返ってみても、もし初めから家業を継いでいたら視野が狭いままだったと思います。外に出たことは、今の自分にとっての糧になってくれていると感じています。花店で育ったこともあり、花を商品として捉えがちなところがありましたが、改めて花は心に潤いをもたらしてくれる存在であることも、外からの視点でよくわかりました。
フラワーデザイナーへ
フラワーデザイナーの資格を取ったのは36歳で店を継いだあと。結構遅かったですね。それまでは資格を取るよりも現場で実績を積むほうが重視されていて、なかなか勉強の時間が取れなくて。コンテストにはNFD会員の職場の後輩から勧められて以前からチャレンジを始めていましたが、そこでフラワーデザイナーの杉本一洋さん(岡山県支部/NFD本部講師)と親しくなり、香川県でNFDの公認校をされている岩部和子先生を紹介してもらったのです。この出会いがなかったら、私はいまフラワーデザイナーになっていなかったかもしれません。
学ぶことでデザイン力もアップ
独学はやはり限界があり、学ぶことで一番大きかったのはデザインの広がりです。私の作品はもともと切ったり、敷き詰めたりというのが多いのですが、新たに交差したり段差をつけたりなどの技術的な面を学ぶことで「あ、こういうこともできるんだ」という発見があり、ひいては創造性の発展にまでつながっていると思います。資格を取得してからは、店のお客さまへのニーズに応えるアレンジメントの提案なども、説得力が増して、以前より安心していただけているようです。メリットばかりですね。
フラワーデザインの素晴らしさは、花を使って自分の世界を表現できるところです。自分が美しいと思う花で、好きな形に作品にできる。その基礎となるのが、資格取得に伴う体系的な学びなのだと実感しています。
花はすべてのパーツが魅力的
もともと花の美しさは全体的なものだけでなく、花びらやガク、茎、葉などパーツそれぞれにも可愛らしさや面白さがあります。それをピックアップして、強調したり組み合わせたりすることで、それまでとは違う花の魅力を伝えられるのではないかと考えたのです。デザインを始めた頃のコンセプトは、可能性を広げることを伸びしろと表現した「花の伸びしろを探す」。ユリの花の花びらを取って雌しべと雄しべを強調した作品や、パフィオペディラムというランの裏側を見せたくてつくった作品などがこれに当たります。
ガーベラやカーネーションなどの定番の花でも、視点を変えたり切り口を変えるだけで、まったく違う表情を見せてくれるのです。 いまは、さらに発展させて「植物の部分的強調」をコンセプトにしています。
ホワイトレースフラワーの花をカットして茎だけにしたものを盆栽に仕立てた作品や、蓮の茎をカットし切り口から引く糸を交差状に繋げた作品などは、自分でも気に入っているものです。花びらは難しいですね。何の花か一目でわかってしまうので、きれいではあっても自分的には燃えないんです(笑)。
ロスフラワーからのひらめき
花のパーツに着目したのは、私がフローリストでもあるからでしょう。花店をしているとフラワーロスの問題がつきもの。競りでは百本単位で仕入れるため、通常で30〜40%、夏場なら半分くらいがその対象になってしまうことも。ドライフラワーなどに加工もしますが、大量に廃棄する花々がかわいそうだし、もったいなくて……。花びらが枯れたら終わりではなく葉を使う、葉がダメなら茎を使うなど、どうにか生かしたくて作品にしようと考えたのが始まりだったと思います。近年注目が増してきているSDGs(持続可能な開発目標)の先取りをしていたといったら大げさかもしれませんが、フローリストでありフラワーデザイナーでもある私ができる、環境問題への一つの解決策になればと考えています。
楽しいインパクトをめざして
周りに優秀なデザイナーさんがたくさんいるので、技術で競うのではなく発想で勝負できればという想いがあります。既視感のあるデザインで完成度を追求するよりも「これは何?」「これがフラワーデザイン!」というインパクトや楽しい驚きを感じてほしい。
まず自分が感動できないと、創っていても面白くないじゃないですか。制作中にアドレナリンが出っ放しになるくらいが理想です。もっとも10何年前の作品の写真などを見ると、自分でもなんでこんなデザインを思いついたのかな?って過去の自分を誇らしく思うことがあります(笑)。日々植物を観察し、さまざまな花のパーツを使っていろいろ実験していますので、ぜひインスタグラムをのぞいて見てくれたら嬉しいです。
花だからこそ創れる
アイデア探しは、常にアンテナを張り巡らせています。作品のためのネタ1000個というのが目標で今年の春に達成しましたが、新たにもう1000個頑張ろうかなと考えているところです。一つの花をよく見ること、季節によって変わる水もちの違いなどの状態変化を観察することは良いヒントになります。この時期のこの素材だからこの作品は生まれた、ということもよくあること。先ほど紹介したレースフラワーの作品も、その時期だけ茎の空洞が大きめに開いていたのでワイヤを入れられたから盆栽に仕立てられたものです。
私の作品はよくアーティスティックだという評価をもらうのですが、コンテスト用に制作することが多いので、生花7割以上などの規定内にどう落とし込めるかということも大事にしています。何より「花でつくるから楽しい」、というより「花だからこそ創れる」。花以外でデザインしろといわれても何も浮かばないと思います。だからフラワーデザイナーであり続けたい、やめられないんです!(笑)
素材の面白さを見つけたら
いま力を入れているのが植物回路シリーズです。実ものは本当に形がいろいろで、ユニークなものや美しいものなど見ていて飽きません。最初に使ったのが機械部品っぽいと思ったユーカリの実。まるでプラスドライバーが入るネジみたいな形で、『日本フラワーデザイン大賞2022』でディスプレイ with リース部門の奨励賞をいただいた「クリスマスリース製造機」でも、まさにネジとしてはめ込んでいます。
コンピュータの基盤の画像を見た時も「あ、つくれそう」と一瞬で閃いて、並べるだけで楽しくてワクワクしながらつくっています。
どうしても素材の面白さの発見がないと生まれないので、ロスフラワーを処分する前にひたすら切り刻んで「これだ!」というパーツを見つけた時は本当にうれしいし、それを組み合わせて形になった時の達成感は言葉にできないものがあります。作品を観てくださった方から「これは何でできているんですか?」と聞かれることが多いので、最近では花材の名前をタイトルに入れてわかりやすくしています。
フラワーデザイナーとしてのこれからとその魅力
今後の目標としては、レースフラワーの盆栽のように花ごとに代表する作品をつくっていけたらと考えています。仕事をする上で勉強になる技術を身につけるために取得した資格であるのも事実ですが、自分のやりたいことを表現できる幸せ、またそれを発表し他のデザイナーの方々と切磋琢磨できる喜びはフラワーデザイナーになったからこそのものです。
Profile
山﨑 亮 Makoto YAMAZAKI
やまざき花店 経営 / NFD講師
東京都生まれ。明治大学農学部卒業後、都内の生花店、ホテルなどで11年間、生花園芸仕入れ、店舗業務、花装飾などの経験を積む。「やまざき花店」三代目、店舗業務のかたわらコンペティション、作品展などでも活動中。
編集後記
東京・鷺ノ宮駅前、一見普通の花店なのに一歩中に入ると、そこはまるで錬金術師の工房のよう。天井から下がるさまざまな植物のパーツ、棚にはビーズのような実ものが詰まった小瓶がずらりと並び、これまでの数々の賞を得た作品たちがあちらこちらに点在して不思議空間をつくりだしています。
オーナーの山﨑亮さんは、その圧倒的個性でフラワーデザインのイメージの幅を広げてみせた発想力の鬼才。ご自身のインスタグラムをのぞけば、四角いラナンキュラスや花びらを裏返しにしたバラなど遊び心あふれるフラワーデザインの小品でいっぱいで、その創造性の一端を垣間見せてくれるようです。
フローリストでもあるからこそロスフラワーによる作品づくりにこだわり、花だからデザインできるのだと語る。誰よりもフラワーデザイナーであることを楽しんでいるように見受けます。
そんな山﨑さんの作品を実際に見ることができるイベントが開催されます。
韓国・日本 フラワーアーティスト芸術作品競演【ONE and ONLY 唯一無二】
会期 2024年8/29(木)-9/3(火) ※9/1(日)休館時間10:00-17:00 ※最終日9/3(火)15:00まで
入場 無料
会場 韓国文化院ギャラリーM1(1F)
▽詳細はこちらからご覧いただけます
※この記事の情報はすべて、取材当時のものです。