植物の美しい花には、アントシアニンを代表とするフラボノイド、カロテノイド(カロチノイド)、ベタレインの3種類の色素が含まれており、それらのおかげで、花が青色、黄色、赤色に見えること、また、それらの色素は、抗酸化物質であり、植物たちが自然の中で命をつないでいくために、大切な役割をはたしていることを、前回、紹介しました。
しかし、花には、もう一つ、白色があります。白い花には、どんな色素が含まれているのでしょうか。 白い花にも、「フラボン」や「フラボノール」という色素が含まれています。しかし、それらは白色の色素ではなく、無色透明か、うすいクリーム色の色素なのです。これらの色素も、抗酸化物質なので、青や赤、黄色の色素と同じように、花を紫外線から守る働きはあります。
白色の花には、白色の色素は含まれていないのに、白く見えるのです。これには、“しくみ”があります。実は、輝くような真っ白な花の色は、“小さな空気の泡”に由来します。花の白色は、花びらに当たった光が小さな空気の泡から反射した色なのです。
花の白色は、小さな空気の泡に光が反射しているだけといわれると、輝くような高貴な真っ白な花の色への思いが覚めるようですが、滝で見られる水しぶきが白く見え、湖や海の波が白く見えるのも、ビールの泡や石鹸の泡が白いのも同じです。
ですから、白色の花びらの中の小さな空気の泡を追い出せば、花びらは無色透明になります。白い花びらを親指と人差し指に挟んで強く力を込めると、その部分から小さな空気の泡が押し出され、無色透明になることで確かめられます。
ただ、私たち人間には、ただの白い色の花にしか見えなくても、昆虫には色が違ったり、紫外線のために模様がついていたりして、違った模様の花に見えているはずです。なぜなら、昆虫には紫外線が見えるからです。
太陽の光には、私たちに見ることのできる可視光とよばれる光以外に、紫外線が含まれています。紫外線を感じることができるカメラで撮った花の写真を見ると、花びらには、紫外線を反射する部分と吸収する部分があることがわかります。
これらの部分が、ハチやチョウには、花びらの模様として見えているはずです。そのため、同じように見える白色の花であっても、白色に限らず、私たち人間には一色に見える花にも、昆虫には模様があることもあるのです。
このような模様は、昆虫にとって、花の目印となるとともに、花粉や蜜がある花の中心部に誘われるのに役立つと考えられます。