多くの草花が、春に暖かくなってくると、毎年規則正しく、花を咲かせます。見慣れた現象なので、「なぜ、多くの草花が、春に花を咲かせるのか」と疑問に思われることはあまりありません。でも、改めて考えてみてください。植物が花を咲かせるのは、タネをつくるためです。ですから、草花が春に花を咲かせるのは、初夏にタネをつくるためなのです。それが答えなら、今度は、「なぜ、多くの草花が、初夏にタネをつくるのか」という疑問が浮かびます。
タネには、いろいろと大切な役割があります。その中の一つは、不都合な環境に耐えて生きのびることです。タネは、植物の姿をしていては耐えられない暑さや乾燥などの不都合な環境を耐え忍ぶ力をもっているのです。暑さに弱い草花たちにとって、毎年訪れてくる不都合な環境は、夏の暑さです。そのため、暑い夏をタネで過ごすために、春に花を咲かせ、初夏にタネをつくり、姿を消すのです。
夏には、緑の植物が多いので、姿を消した植物は目立ちません。しかし、ナノハナやチューリップ、カーネーションなど、春に花を咲かせていた多くの草花の姿を、夏に見ることはできません。初夏にはタネになっているからです。
「草花が春に花を咲かせ、初夏にタネをつくるのは、夏の暑さをタネの姿でしのぐため」ということなら、春に花を咲かせる草花は、春の間に、もうすぐ暑くなることを前もって知っていることになります。
草花が夏の暑さの訪れを前もって知るためには、その “しくみ”がなければなりません。そのための“しくみ”があるのです。
実は、草花の葉っぱが、夜の長さをはかるのです。それを知ると、「夜の長さをはかれば、暑さの訪れが前もってわかるのか」という疑問が浮かびます。その答えは、夜の長さと、気温の変化の関係を考えるとわかってきます。
12月下旬の冬至を過ぎると、夜がだんだんと短くなりはじめます。夜が最も短くなるのは、夏至の日です。この日は、6月の下旬です。それに対し、最も暑いのは8月です。夜の長さの変化は、気温の変化より、約2ヵ月先行しておこっているのです。
ですから、草花は、葉っぱで夜の長さをはかることによって、暑さの訪れを、約2ヵ月前に知ることができるのです。春に花を咲かせる草花たちは、「夜が短くなってくると、やがて暑さが訪れてくる」ということを知っているのです。
だからこそ、草花が春に花を咲かせ、初夏にタネをつくり、夏の暑さをタネの姿でしのぐことができるのです。