近年、夏の猛暑と炎天下に、多くの人々が熱中症にかかって救急車で病院に搬送され、家庭に飼われるイヌや動物園で飼育されるサルやクマなどの熱中症も心配されます。自然の中で育つ植物たちも強い太陽の光と暑さの影響を受けますから、熱中症という言葉が適切かどうかは別にして、植物たちのからだが弱ることはあるでしょう。
でも、私たちが心配しなければならないほど、夏に育つ植物たちが、猛暑に困ることは少ないはずです。なぜなら、夏の暑さに弱い植物たちは、暑さが来る前の春に、子孫であるタネをつくって、姿を消しているからです。
一方、夏の猛暑の中で育つ植物たちの多くは、暑い地方が原産地です。ですから、暑さに強い植物たちなのです。そのため、熱中症になる心配をするよりは、夏の暑さで、先祖の生まれ故郷に思いを馳せているはずです。
しかし、暑い地方の出身であっても、夏に繁茂するためには、暑さに耐えるしくみが必要です。昼間、太陽の光が強いとき、植物たちは、光合成に使う光を吸収するために、葉っぱを広げています。そのため、葉っぱには強い日差しが照射し、葉っぱは温められます。葉っぱの温度は、「体温」ではなく「葉温」とよばれますが、かなり高くなります。
葉っぱでは、デンプンをつくる光合成が行われます。この反応を進めるために、多くの酵素とよばれる物質がはたらきます。これらの酵素は、温度が高くなりすぎると、はたらかなくなる性質があります。すると、光合成ができなくなり、植物は生きていけません。そのため、葉っぱの温度が高くなりそうな場合、葉っぱは、温度が上がらないように抵抗します。
その方法は、葉っぱが汗をかくことです。葉っぱの表皮にある小さな穴である「気孔」から水を盛んに蒸発させるのです。水が蒸発するときには、葉っぱから熱を奪っていくので、葉っぱの温度が下がります。人間が汗をかいて、体温の異常な高まりを抑えるのと、同じです。といっても、葉っぱが汗をかく姿は見られません。葉っぱのかく汗は、葉っぱの表皮から水蒸気となって蒸発するので、ふつうには、目に見えません。
でも、その気になれば、葉っぱの汗を見ることができます。透明か半透明の薄いビニールの袋を、太陽の強い光が当たっている葉っぱにかぶせ、袋の口をひもでしばっておきます。数十分間が経過すると、袋の内側に小さな水滴が現れてきます。これは、葉っぱがかいた汗であり、植物たちが暑さと戦っている証なのです。