この植物はオトギリソウ科オトギリソウ属で、原産地は地中海沿岸地方や中央アジアとされます。この植物は、英語名でも和名でも、ヒペリカム(Hypericum)と呼ばれますが、この語は、学名ではオトギリソウ属を示し、ギリシャ語の「上」を意味する「hyper」と「像」を意味する「ekion」とから成り立っています。古代ギリシャでは、魔よけの植物として、像の上に供えられていたことにちなむといわれます。
私たちの身近では、中国を原産地とする、2種類のヒペリカムがよく栽培されています。約300年前に渡来したといわれるビヨウヤナギと、約200年前に渡来したキンシバイです。二つともに、枝の先端にあざやかな黄色の花を咲かせ、その花には多くの本数のオシベがあり、花の印象はよく似ています。でも、オシベの長 さには、大きな違いがあり、ビヨウヤナギでは長く、キンシバイでは短いので、二種の判別は容易です。
ビヨウヤナギの学名は「ヒペリカム キネンセ(Hypericum chinense)」です。「キネンセ」は、中国生まれを意味します。漢字では、花が美しく、葉っぱの形がヤナギ(柳)に似ていることから、「美容柳」と書かれます。中国の玄宗皇帝と楊貴妃の故事にちなんで、「未央柳」という漢字名が使われることもあります。
キンシバイの学名は「ヒペリカム パツルム(Hypericum patulum)」です。「パツルム」は、芽が枝に沿うよりはやや立ち上がるような姿を意味するといわれます。漢字で「金糸梅」と書かれるのは、黄色のオシベを金の糸にたとえ、花の形がウメ(梅)に似ていることが由来です。
ビヨウヤナギやキンシバイは、ほかの植物に比べて、特別に多くの本数のオシベをもちます。私が数えたことのあるキンシバイには、一つの花に100本以上のオシベがありました。そのため、「なぜ、これらの植物は、それほど多くの本数のオシベをもつのか」と不思議がられます。しかし、特別に多い原因は不明です。
虫に花粉の移動を託する植物たちは、「どこに飛んでいくかわからないハチやチョウなどが、仲間の花のメシベに花粉を届けてくれるだろうか」と不安でしょう。そのため、花粉を多くつくるオシベを、メシベの本数より多くもっているのです。ビヨウヤナギやキンシバイが特別に多くのオシベをもつのは、これらの植物が特に心配性だからかもしれません。 (text:TANAKA Osamu)
花の形体や形態、キャラクターなどにより、作品のイメージに合った使い方をします。
フラワーデザインでヒペリカムというと、コロッとした実がよく使用されます。
実は1cm弱で光沢があり、熟すとグリーンから赤色、黒色へと変化するため、デザインに合ったさまざまな使い方ができます。赤い実はクリスマスのアレンジメントでもよく使用され、可愛らしい雰囲気を添えています。
フラワーデザイナー資格検定試験では、実がまとまってつくので、マスフラワーとして空間を埋める役割で「非対称形のブーケ」や、材質感の対比として「構造的(テクスチュア)」などで使用します。
また、ビヨウヤナギとしては、長細い楕円形の葉をつけた細くてしなやかにのびる枝が美しく、一般的にはアレンジメントなどで使われています。(text:NFD)