本書は、古今の造形芸術作品に描かれた庭がどのような意味を持っていたのかを繙(ひもと)いていく庭園論あるいは西欧文明論を主軸としています。天上の楽園としての天国の表象や、ギリシア・ローマの神話の園、貴族たちのルネサンス庭園から世俗化した市民の庭まで、庭園を構成する要素である、門、囲い、水、泉、迷宮、洞窟、庭師、花・樹木・果実などを手がかりに、さまざまな絵画を通じて古今の庭園をめぐります。
描かれている絵画は神話の世界と現実の世界の庭園、そしてキリスト教との関わり。豊富な図版の中にはボッティチェリやフェルメールなど有名な画家も含まれています。本書を読んで思うのは、違和感なく古代とキリスト教の世界がつながっているという不思議さ。初期のキリスト教徒が、自分たちの信仰を古代の神あるいは神話に寄り添うようにして読み解き、その体系を整えていった様子が窺えると筆者は綴っていますが、図版からもそれが見て取れます。
著者はNFDで招聘したことのある小林賴子氏。膨大な文献を裏付けにした本書は、ありとあらゆる絵画から、その時代における庭園の位置づけを明らかにしていきます。丁寧に書かれた考察は読み手を一気に惹きこみ、面白いの一言に尽きる、おすすめの一冊です。